毎年のように豪雨災害が起き、崖崩れや橋梁が壊れたなど、交通が寸断されたニュースが流れる。最近は、その後、復旧を断念という続報を聞くことも珍しくない。ところが、厳しい環境のなか完全復旧を果たした鉄道路線がある。ライターの小川裕夫氏が、鉄道会社だけでなく沿線自治体なども協力して、運用方法を工夫するなどして完全復旧した南阿蘇鉄道と、JR東日本の只見線の例をレポートする。
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2023年7月15日、熊本県の南阿蘇鉄道が全線の運転を再開させる。南阿蘇鉄道は熊本県南阿蘇村に所在する立野駅と同県阿蘇郡高森町の高森駅を結ぶ約17.7キロメートルの路線で、2016年に起きた熊本地震で全線が運休に追い込まれた。
熊本地震の発生から約3か月後には、中松駅―高森駅間が運転を再開。しかし、立野駅―中松駅間の復旧は進んでいなかった。
「中松駅―高森駅間は同年に復旧できましたが、立野駅の復旧に時間を要した主な原因は立野駅から隣駅の長陽駅の間にある第一白川橋梁が損壊したからです。第一白川橋梁の損傷は激しく、建て替えるのに時間を要しました。立野駅はJR豊肥本線との乗換駅になり、利用客が多い駅です。コロナ禍が収束したことで観光客を中心に南阿蘇鉄道は利用者が増加傾向にありますが、全線が復旧して立野駅から南阿蘇鉄道に乗車できるようになれば、さらに利用者増が期待できます」と話すのは、南阿蘇鉄道再生協議会事務局の担当者だ。
南阿蘇鉄道は旧国鉄時代に高森線という路線だったが、1986年に第3セクターに転換。国鉄時代は高森線の列車が豊肥本線へと直通する列車も運行されていた。第3セクターへと転換後は、南阿蘇鉄道と豊肥本線の直通運転がなくなる。
「今回の全線復旧によって、豊肥本線の肥後大津駅まで乗り入れる列車も運行されるようになります。肥後大津駅は熊本空港の最寄駅ですので、直通運転によって南阿蘇鉄道への誘客が期待できます」(南阿蘇鉄道再生協議会事務局の担当者)
直通運転によって豊肥本線へと乗り入れる南阿蘇鉄道だが、乗り入れるのは肥後大津駅まで。そこから熊本市の中心部へと向かうには、乗り換えが必要になる。熊本市は説明するまでもなく熊本県の県庁所在地で、政令指定都市でもある。南阿蘇鉄道の列車が熊本市まで直通できれば、通勤・通学の足としての需要も期待できる。
しかし、南阿蘇鉄道は非電化路線で、豊肥本線は肥後大津駅から熊本駅までが電化区間となっている。直通列車が走らない理由は電化・非電化だけではないだろうが、現段階では「熊本駅まで乗り入れるという話は出ていない」(南阿蘇鉄道再生協議会事務局の担当者)という。