「気圧が低い日は決まって頭が痛くなるから、天気予報で調べて先に薬をのんでおくのが日課です。すぐに胃もたれするから胃腸薬も手放せないし、5年前の健康診断で高血圧とわかってからは降圧剤も欠かさずのんでいます。だけどこんなにも毎日、体のためにこまめに薬をのみ続けているのに、体調万全と思えた日はないし、むしろ頭痛は悪化しているような気もします。なんだか気分も優れなくて……」
沈んだ顔でそう話すのは東京都在住の主婦・Mさん(67才)だ。年を重ねるほどに病院に通う回数も増え、それに比例して薬の量も種類も、そして服用する期間も増えていく。そしていまや大抵の薬は、ドラッグストアやネット通販で24時間簡単に手に入る。だが、そこには大きな落とし穴があるとeクリニック医師の岡本裕さんは指摘する。
「薬は体にとって異物であり、どんな薬であっても副作用があるうえ、解毒・排泄する際は肝臓と腎臓に負担がかかります。さらに人体には同じ薬をのみ続ければより早く異物を解毒し排出しようとする働きが生まれ、耐性がついて次第に薬が効かなくなっていく。長期間にわたって服用し続けることは体にとって害悪しか生まないのです」
つまりのみ続けているその一錠こそが、体調を悪化させている一因なのだ。恐ろしいのは身近な薬であればあるほど、その可能性が高まるということ。「いつもの薬」こそがあなたの体を悪くしている大きな原因かもしれない。
のむほどに胃も頭も痛くなる! 「即効性」と引き換えに失うもの
多くの専門家たちが「長期服用で弊害が出やすい」と声を揃えたのは頭痛や発熱、生理痛に伴う苦痛を緩和するための「解熱鎮痛剤」だ。薬剤師の三上彰貴子さんが解説する。
「コロナ禍で需要が伸び、常備薬としてストックしている人が増えた一方、副作用も多数報告されています。特に懸念すべきはアスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェンなどNSAIDs系(非ステロイド性抗炎症薬)の薬。胃潰瘍をはじめとした胃腸障害のリスクが上がることがわかっていますが、現在市販されている解熱鎮痛剤は子供の発熱でよく処方されるアセトアミノフェンを除くと、ほぼNSAIDs系に分類されます」
銀座薬局代表で薬剤師の長澤育弘さんが懸念する副作用は血圧の上昇だ。
「NSAIDs系を長期で服用している人は、高確率で高血圧になりやすい。これは薬の作用過程に理由があります。NSAIDs系の薬は痛みや炎症を発生・増強させる物質『プロスタグランジン』の生成を抑えて痛みを和らげる作用がありますが、このプロスタグランジンには血管を拡張する働きもある。そのため、生成が抑えられることで血管が拡張しにくく、血圧が高くなってしまうのです。実際に、痛み止めをのむのをやめたらすぐに血圧が下がったという例は少なくありません」