連日うだるような暑さが続いている。外に出るのが億劫になるときこそ、エアコンが効いた涼しい部屋で、ゆっくり読書を楽しんでみてはいかがだろう。おすすめの新刊を紹介する。
『時々、慈父になる。』/島田雅彦/集英社/2310円
青春私小説『君が異端だった頃』に続く自伝的小説の後編。男子を授かり、その未来に心を砕き、文学者としても円熟期を迎えた現在までを描く。愛息は米国の音大を出てオペラに携わる青年に。時代背景や自著解説も含めて明晰な自己開示。インタビューしたら皮肉の針に刺されて討ち死にしそうというイメージのある方だけに、こんなに率直!?と、ちょっと嬉しくなる面白さ。
『近代おんな列伝』/石井妙子/文藝春秋/1980円
どれも濃厚。名医となるも女に医師免許を与えない制度で廃院したシーボルトの娘楠本イネ、大正天皇を産んで皇統を繋いだにもかかわらず日陰に追いやられた柳原愛子、冤罪で死刑になった新聞記者管野須賀子、障碍者教育の母にして哀しい最期を遂げた石井筆子。2023年日本のジェンダーギャップ指数は過去最低の125位に。なぜ為政者達は本書の彼女達の歴史から学ばないの?
『センチメンタル リーディング ダイアリー』/@osenti_keizo_lovinson/本の雑誌社/2200円
誰でも発信者になれる今、客観的な○○評って有効なのかなあと思う。客観より主観。評者とは繋がれないけど、自分の思いを書く人とは繋がれる。本書は現代のそんな意識にフィットし、書評を読んでいるつもりが、いつしかご本人(本名平野敬三さん)の私的領域に侵入してしまっている感じ。ちょっとおセンチな“途方に暮れる感”は、燃え殻さんにも共通するテイストだ。
『ロスねこ日記』/北大路公子/小学館文庫/715円
愛猫が死んで15年、心にあいた猫穴を埋めるべく、著者は女性編集者の勧めで植物を育てることに。けめたけ、きせのさこ、末尾に松を付ける六つ子達、可愛さを競うユメメ、ピリリ、カーたん。さて何でしょう? 正体は読んでのお楽しみとして、名付けは愛着の源泉だなあと思わせられる。背景には北海道の四季や両親との暮らしもあって、最後にあく大きな穴にもジ〜ンとくる。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年7月27日号