心臓病の分野で日本の最高権威とされる国立循環器病研究センター(大阪・吹田市)。その経営トップである大津欣也理事長(64)が20年前から研究論文を不正に改ざんしていた疑惑が判明した。疑惑の論文には、大津理事長を中心に大阪大学循環器内科の関係者が多数携わっている。日本の医学研究の信頼が揺らぐ重大疑惑をジャーナリスト・岩澤倫彦氏が追った。【前後編の前編】
前代未聞の不正行為
〈この論文は別の実験画像を再利用しているのではないか〉
〈実験画像に“切り貼り”した形跡がある〉
今年6月、世界の科学者たちが研究論文を検証するウェブサイト「パブピア(PubPeer)」に、国立循環器病研究センター・大津欣也理事長の不正行為の疑いを指摘する投稿がされた(サイトの英語表記を和訳、以下同)。
パブピアは、世界的に物議を醸した「STAP細胞」の論文捏造を、いち早く指摘したサイトである。投稿できるのは研究論文の執筆経験者など、事前に審査を受けた科学者に限定され、信頼性が高いという。
大津氏が指摘を受けたのは、彼が責任著者となった7つの研究論文である。心不全などの心臓病の原因を探り、治療薬の開発に結びつけることを最終的な目標とした実験室での基礎研究などだ。
その中には、世界最高ランクの医学誌『Circulation』に掲載された論文があった(2020年)。同誌に掲載されると、教授昇進の切符を手にしたと言われるほど高い評価を受けるという。
その権威ある医学誌に採用された大津氏の論文に対して、実験画像を加工して別の箇所で再利用した可能性が示されていた(118ページ参照)。
他の論文についても、実験画像に「切り貼り」「コントラスト(濃淡)の加工」など不適切な処理を施した形跡が指摘されている。
最も古い2003年から2020年の論文まで、合計7つの実験画像に「捏造」および「改ざん」の疑いがあるという。研究を証明する重要な“証拠”となる画像に不正行為があれば、論文撤回などの厳しい措置が取られる。