1987年の騎手デビューから34年間にわたり国内外で活躍した名手・蛯名正義氏は、2022年3月から調教師として活動中だ。蛯名氏の週刊ポスト連載『エビショー厩舎』から、2023年の「セレクトセール」、日本競走馬協会が主催するセリ市についてお届けする。
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7月10日(月)と11日(火)の2日間、競馬界のビッグイベント、セレクトセールが開催されました。大勢の馬主さんや調教師などのホースマンが北海道苫小牧市のノーザンホースパークに集結しました。
毎年億を超える落札価格が話題になりますが、低価格(といってもかなりお高いのですが)で取引された馬も含めて、何頭もGIを勝っています。このセールのために「セレクト」された馬は確率的に「走る馬」が多いので、白熱したセリが展開されるのです。
主催する日本競走馬協会によれば、今年は435頭が落札され、その総額は281億4500万円で、過去最高だった2022年をさらに24億円近く上回ったとのこと。さらに1億円以上(消費税は別です)の値を付けた馬が63頭というから驚きという他ありません。
1日目は1歳馬のセリ。タイトルホルダー、スターズオンアース、リバティアイランドといったGI馬を送り出しながら9歳で早世したドゥラメンテの最後の世代が人気。2日目は今年生まれたばかりの当歳馬のセリで、2020年の三冠馬コントレイルの最初の世代に注目が集まりました。
両日にわたって人気だったのが、現在重賞4連勝中のイクイノックスや皐月賞馬ソールオリエンスを送り出したキタサンブラック産駒。上場されるたびに“キタサン祭り”の盛り上がりでした。僕も2日間会場に詰めて、1億、2億という金額が当たり前のように飛び交うセリを体感してきました。
ここ1か月ほどは時間を見つけては北海道に渡り、いくつかの牧場に何度も通って上場予定馬を見せてもらい、自分でいいなあと思った馬はピックアップしていました。
何人かの馬主さんと相談し、血統の希望や予算などもうかがって、見合う馬がいたらセリに参加するつもりでした。なかには1億円までなら、といったありがたいお話もいただいていて、勇んでセリに臨んだのですが、あっという間に超えてしまって、あえなく撤退したこともありました。
これまでセレクトセールを見てきた経験から、リザーブ価格(あらかじめ決められたセリの最初の値段)の2倍、ときには3倍まで上がることは想定していたのですが、その予想をもはるかに上回ってしまいました。手が出ない、というよりも手が挙がらなかった。
少し前までのセレクトセールでは、高額落札馬といえばノーザンファームなど社台グループの生産馬が中心、それもディープインパクトやハーツクライなど一部の種牡馬産駒に人気が集中していました。しかし今年は日高の牧場で生産された馬にもかなりの高値が付きましたし、どの種牡馬産駒もまんべんなく高値が付くようになりました。