香港では2020年6月末に言論や報道の自由などを大幅に規制する香港国家安全維持法が施行されたことで、その後の2年間で14万5000人の人々が英国に移住したとされる。小中学生の移住も急激に増加しており、2019年9月から2022年9月までの3年間で、約6万8000人が香港を離れていたことが明らかになった。
同法施行前の2018年9月から2019年9月までの1年間で海外に移住した小中学生は2429人だっただけに、小中学生の移民数は年間で約10倍も増えたことになる。香港紙「経済日報」が報じた。
香港政府教育局の年次報告書「学生人口統計」によると、香港国家安全維持法が施行されてから1年2か月後の2021年9月から2022年9月までの1年間だけで、2万7000人の小中学生が親とともに海外に移住しており、同報告書は「今後もこのような増加傾向は当分変わらない」と分析している。
この原因について同紙は、教育局が2021年から新たに「市民・社会開発」(社会科)を創設して、高校の必修科目にすると発表したことが大きいと報じている。この科目では「小学校4年から6年の間に、少なくとも1回は中国本土への研修旅行をしなければならない」と定めている。
父兄からは「香港政府は生徒の中国本土への交流を義務化したが、生徒が中国本土に出入りする際に何かをチェックされたり、拘束されることがあるのだろうか」、「 私の息子はSNSで政府を批判したことがあるが、中国本土で、息子の身に何か起きる可能性はないのか。息子個人の自由と安全がとても心配だ」などとの疑問の声が教育局に寄せられているという。
海外移住は幼稚園児にも広がっており、2022年9月までの過去1年間で、少なくとも6500人の幼稚園児が香港を離れており、退園率は約6.31%と近年で過去最高となった。この点について教育局は同紙に、保護者には子どもの学校を選ぶ権利が常にあり、転校、本土への転居、海外留学など、生徒の移動は「普通のこと」だと反論している。
香港の学校現場ではますます中国共産党による愛国教育の影響が強まっている。中国の全国人民代表大会(全人代=国会に相当)は6月下旬、習近平国家主席が掲げる「中華民族の偉大な復興という中国の夢」を愛国教育に反映させ、指導体制や教育内容を規定した愛国教育法を審議しており、同法は「香港、マカオ、台湾の同胞」も対象としている。このようなことから、中国共産党による思想強化を嫌って、子供ともども香港から英国などに移住する市民は増え続けているようだ。