大谷翔平のスライダーより大きな幅で曲がる「スイーパー」に五十嵐亮太氏が挑戦(写真/共同通信社)
シーズン60本に迫るペースでホームランキングを独走するなど、打撃絶好調の大谷翔平だが、投手としては5月末からやや調子を下げ、前半戦17試合で7勝4敗にとどまり、後半戦も黒星スタートとなった。長引く爪の負傷も心配されるが、本調子を取り戻して投手タイトルを視野に入れる鍵はどこにあるのか。野球動作解析のプロ集団「NEXT BASE(ネクストベース)」の協力のもと徹底分析した。
今春のWBCにおいて、大谷翔平がエンゼルスの同僚、マイク・トラウト(米国)から空振りを奪った最後の一球がスイーパーだ。スライダーより大きな幅で曲がるこの魔球は今季前半まで大谷が投じるボールの約40%を占めていた。
「MLB全体を見渡しても、大谷投手が一番のスイーパーの使い手であることは間違いありません」
そう話すのは、アスリート向けに動作解析を行なう「ネクストベース」の上級主席研究員・神事努氏だ。施設の入り口には吉田正尚(レッドソックス)や平良海馬(西武)らのサインが飾られ、現在も47人の現役プロ野球選手のほか、仙台育英など強豪校の球児が同所で投球に磨きをかける。
「大谷投手のスイーパーが特殊なのは、上方向に浮き上がるような回転をしながら、左に大きく曲がる点です。それゆえ打者のバットがボールの下をくぐるような空振りがとれるし、当てられてもフライになることが多い。
サイドスローやアンダースローの投手が投げるボールの質に近く、実際、大谷投手は直球やカーブと比べて、肘の位置が約30センチ以上も頭から離れています。打者に対するボールの入射角を意識しながら、インステップ気味に踏み込み、右腕を横からぶん回すイメージで投げている」
図の縦軸はリリースの高さ、横軸はプレートからリリースポイントまでの距離を示す。スイーパーと直球とで腕の位置にはっきりした違いがあるため、打者は球種を予測しやすくなるが、「良質のボールが投げられればアウトにできると考えているはず」(神事氏)。同じ球種でもリリースポイントにばらつきがあるのは、試合の中でその日の状態に合わせて微調整しているのだろう(提供/NEXT BASE。数値は前半戦最終登板7月5日時点)
スイーパー:「横投げ」に近い投げ方で、投手方向から左に平均42.5cmの曲がり幅を生み出す。前半戦の投球の35.4%を占めた(写真=AFP/AFLO)
速球、カーブetc.:スプリット、カーブ、速球は地面から180~200cm程度の高い位置から投げており、腕の振りは「縦振り」に近い(Getty Images)
日本時代の大谷の変化球は、しばらくはスライダーが中心だった。ところがメジャーに渡り、2018年にトミー・ジョン手術を経て以降、とりわけ昨年はスプリットとツーシームを中心に組み立てていた。
「バックスピンがかかった伸びるボール(直球)、落ちるスプリット、左に曲がるスイーパー、右に曲がるツーシームなど、全方向に変化する球種の豊富さも大谷投手の特殊性でもありますが、今季はスプリットがほとんどボールになっていて、使えていない」