英国の情報機関といえば、映画「007」に登場するジェームス・ボンドが思い浮かぶだろう。そのボンドが属するイギリス対外情報部(MI6)のリチャード・ムーア長官は7月中旬、チェコの首都プラハを訪れ、ウクライナでの流血を終わらせるために、ロシア人を諜報員として採用することを明らかにした。長官が公開の場で、ロシア人に対してMI6諜報員の募集を呼びかけるのは初めて。BBCが報じた。
今年は「プラハの春」から55年目にあたる。当時の共産主義国チェコスロヴァキアで起きた自由化運動弾圧のため、当時のソ連は25万人の大軍をプラハに送り込み、運動を抑え込んだ。
ムーア長官はそのプラハを訪れ、当時の欧州などに与えたロシア恐怖に言及。今では多くのロシア人が1968年当時の人々のように、ジレンマと抱え、良心の呵責で葛藤していると述べた。
そのうえで、多くのロシア人は、プーチン大統領が掲げるウクライナ侵攻の理由は言いがかりで、嘘と幻想に満ちているものだと、頭の中ではわかっていると指摘した。長官はこれまでも多くのロシア人がMI6に協力しており、他のロシア人も同じような行動をとってもらいたいと訴えた。
MI6のリクルートは業務の性格上、かつては秘密裡に行われてきた。オックスフォードやケンブリッジといった名門大学において、MI6とのパイプを持つ教授が仲介して、優秀な学生に声をかけるというものだ。しかし、毎年決まった大学の学生から採用することになり、学生の質や専門に偏りが生じるという欠点があった。
このため、MI6は2005年10月、初めて公式ウェブサイトを開設し、多方面からの人材募集を開始。応募条件は本人、および両親のどちらかが英国籍であること、18歳以上で過去10年間に5年以上英国に住んでいることなどとした。
ウクライナ戦争が始まってから1年半が過ぎた今、MI6が公にロシア人のリクルートを明らかにしたことで、英国は戦争の長期化を見越しているといえるだろう。