50才前後で迎えることが多い閉経。その前後はホルモンバランスの変化によりさまざまな体調不良、すなわち更年期障害の症状が出る。そもそも、生理中の不調や閉経、更年期障害などはすべて「エストロゲン」「プロゲステロン」などの女性ホルモンの増減によって引き起こされる。静風荘病院特別顧問で日本における女性外来の普及に力を入れてきた天野惠子さんは言う。
「エストロゲンは、肌や髪、自律神経のほか、全身のあらゆる場所の健康に影響します。脳の神経細胞、唾液腺、胃腸、血糖値、血圧、睡眠に作用することに加え、血管の柔軟性を保つ働きもある。そのため、閉経前後にエストロゲンが急激に減ることで、女性によくみられる狭心症(微小血管狭心症)も起こりやすくなります」(天野さん・以下同)
更年期障害の典型的な症状は、イライラや不眠、うつ症状、ホットフラッシュなど。それらは主に初期症状として出ることが多く、ホルモン補充療法を行えば見違えるほど元気になることも多いというが「ホルモン治療は危険」と、避けている人も多いだろう。だがそれは「古い常識」であり、日本での普及率は約2%と低い半面、欧米では3〜4割、オーストラリアでは5割を超える更年期女性がホルモン治療を受けているのだ。
更年期障害の症状は多岐にわたり、整形外科でも原因がわからない手足のしびれや関節の痛み、病的なほどの冷えのほか、重篤な健忘が出る場合もある。中には人が変わったように攻撃的になってしまう人や、統合失調症のような妄想を抱える人もいる。知らずに心療内科や認知症外来にかかり、誤った診断がおりることも少なくない。不調を感じて受診する際は、更年期障害の可能性も心に留めておこう。
「これまで多くの患者さんと接してきましたが、私ほど症状がひどかった人には会ったことがありません。あるとき温泉で足の裏をこすったら全身に電気が走ったかのような衝撃を感じ、以来1年ほど、ずっと両足がしびれていたことがありました。湯船につかっても改善しないほどのひどい冷えがあった時期もあります。
またあるときは、学会のために新幹線とタクシーを乗り継いで会場まで行ったら、その学会は1年後に開かれるものだった、という、自分でも驚くほどの健忘が出たこともありました」
天野さんがそれらの症状から解放されたのは、60才を目前に控えたある日のこと。突然体が軽くなり、更年期から抜けたことを悟った。
「“更年期が終わる”とは“エストロゲンのない状態に体が慣れること”です。閉経はいわば、人生の折り返し地点。これまでずっと成長曲線を描いてきたのが急に下降していくので、体に不調が出て当たり前なのです」
※女性セブン2023年8月10日号