香港に隣接する中国広東省深セン市内の中国銀行などの支店では7月に入って連日、香港市民が預金を引き出すために長い列をなし、現金を手にするまで数時間待ちとなる異常な事態が起きている。
今年に入って、中国経済の成長が鈍化し、先行き不透明感が増しているためだ。昨年7月には中国浙江省の地方銀行で預金引き出しができず、預金者と警官隊が衝突する事件も起きており、香港市民の間では銀行側の動きに警戒感が強まっている。香港紙「香港商報」が報じた。
深セン市中心部にある中国の大手商業銀行である中国銀行の羅湖支店では、入り口のドアに警棒や暴徒鎮圧用の盾をもった数人の警備員が配置され、来店者1人1人の身分証などをチェック。店内では、20脚の椅子が用意されていたという。
店内の掲示板には「少なくとも4~5時間待つことになります」との張り紙が貼られており、店内は香港人の利用者でごった返していた。
中国銀行のカスタマーサービス・チームによると、20万元(約400万円)以上の引き出しには、少なくとも前日までの予約が必要で、銀行や支店によって条件が異なる。銀行によっては1日の引き出しを10万元(200万円)に制限しているところもあるという。
ある預金者は並んでから5時間待たされた上に、自分の順番がきても、行員から何度も引き出しの理由を尋ねられたうえで、複数の書類にサインするよう求められ、徹底的な身分証明チェックも受けたという。午前9時に銀行前に並んで、現金を手にしたのは閉店間際の3時前だったという。
中国ではゼロコロナ政策を終了したにもかかわらず、経済の回復が鈍く、いつ銀行が預金引き出しをストップするか分からないとの懸念がある。中国の4~6月期の実質国内総生産(GDP)の前期と比べた伸び率は0.8%にとどまり、年率換算では3.2%と、1~3月期より減速。中国政府が年間の目標として掲げる「5.0%前後」を大幅に下回っている。また雇用の回復も遅れており、16~24歳の若年層の失業率は6月に20%を超えるなど先行き不透明感が強まっている。
これらを背景に、経済情勢に敏感な香港市民が預金の引き出しを急いでいるとみられる。