NHK大河ドラマ『どうする家康』の演出を手掛ける映像作家・野口雄大監督が制作した初の短編映画『さまよえ記憶』が、8月4日から東京・池袋「シネマ・ロサ」で公開される。
映画のテーマは記憶と喪失。行方不明になった息子を探し続ける母親(永夏子)と、それを見守る父親(モロ師岡)が25分間の物語を織りなす。息子が姿を消してから3回目の誕生日を迎えたある日、「欲しい情報」と「それに見合った価値のある記憶」を交換できる力を持った情報質屋(竹原芳子)と出会った母親は、愛する息子と再会するために「大切な人の記憶」を質に入れる。悲しい過去と向き合う時、人はどう生きていくべきなのか──。切なくも美しいストーリーは、見る者に改めて「記憶」との向き合い方を問いかける。
公開に先立ち、野口監督と父親役のモロ師岡がNEWSポストセブンにコメントを寄せた。
「17年前に私の友人がある日突然、行方不明になりました」と語るのは野口監督。
「この作品はその時に私が目にしたもの、耳にしたこと、感じたこと、すべての記憶を思い出し、記憶に向き合うことからスタートしています。大切な人との記憶は宝物である一方で、時として苦しみに変わることもあります。この映画を映画祭などで見て、大切な方との記憶と重ね合わせて涙が出たとおっしゃってくださった方がいましたが、様々な反響をいただいて自分でも新しい発見がありました。 映画作りは昔からの夢で、モロさんは『キッズ・リターン』を見てからの大ファンだったんです。ダメ元でメールを送ったところ『やりがいのある役なら』とお返事をくださり、子供を失った娘の前で明るく振る舞う父親という難しい役を見事に演じてくださいました。母親役の永さん、情報質屋を演じた竹原さんの演技も素晴らしく、リアリティと地続きの特殊な世界観を表現することができたと思います」
自身初の短編映画ゆえ、苦労もあったという。
「途中で何度も心が折れそうになりましたが、そういう時に必ず現れるのが“私の記憶の中で生き続ける友人”です。彼が背中を押してくれたおかげで、ここまで辿り着くことができました。いままでは、私の頭の中にしかなかった記憶が、こうして映画となり、皆様に観ていただくことが出来るという奇跡に感謝しています」
そんな野口監督からのオファーを受け、父親役を演じたモロは映画についてこのように振り返る。
「誰にでも、忘れたくても忘れられない記憶ってあるじゃないですか。思い出は人に話せても、人には言えないことってありますよね。自分にも女房にさえ言ってないことがあるんですが(笑い)、年を取るとそういうことがだんんだん増えて行くような気がします。
全編通してシリアスな役柄というのは久しぶりの体験でしたが、監督とは細かい部分まで話し合い、一緒に作り上げることができたと思います。なるべくディテールを説明せず、見る人の想像に委ねるような表現を心がけたつもりですが、撮影当日も何が正解かわからなかった。でも、出来上がった作品を見てよかったと思っています」
8月4日(金)から東京・池袋「シネマ・ロサ」で上映開始。5日の舞台挨拶には、主演の永夏子、モロ師岡、竹原芳子、野口監督が登壇する。11日から大阪、名古屋、神戸をはじめ全国各地で公開予定。
【プロフィール】
野口雄大(のぐち・ゆうた)/脚本・監督・プロデューサー。日本大学芸術学部放送学科卒業。2008年よりドラマ制作を開始し、数多くの作品を手がける。連続テレビ小説「エール」オープニング映像・本編 / 大河ドラマ「どうする家康」を演出。よるドラ「恋せぬふたり」は第40回向田邦子賞、第59回ギャラクシー賞「特別賞」、第77回文化庁芸術祭賞「優秀賞」を受賞。文化庁VIPO主催「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト2020」のワークショップに参加し、映画制作を開始。映画監督の落合賢氏の元で映像制作を学び、クラウドファンディングで支援を募り短編映画「さまよえ記憶」で映画監督デビュー。
モロ師岡(もろ・もろおか)/1959年千葉県生まれ。1996年『キッズ・リターン』で東京スポーツ映画大賞助演男優賞を受賞。ひとりコントや、古典落語を現代に置き換えたサラリーマン落語をライフワークとし、俳優としても名バイプレイヤーとして精力的に活動している。主な出演作に映画『ガリレオ 沈黙のパレード』、『あゝ荒野』、ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』、『半沢直樹』など。9月2日から大地真央主演舞台『最高のオバハン 中島ハルコ』に出演する。