ライフ

【逆説の日本史】なぜ「日本史」に第一次世界大戦の詳細な分析が必要なのか?

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

作家の井沢元彦氏による『逆説の日本史』(イメージ)

 ウソと誤解に満ちた「通説」を正す、作家の井沢元彦氏による週刊ポスト連載『逆説の日本史』。近現代編第十二話「大日本帝国の確立VII」、「国際連盟への道5 その2」をお届けする(第1388回)。

 * * *
「国際連盟への道」、それはその常任理事国となった日本の「国際舞台への主役の一人としての参加」であった。これにくらべれば、日清・日露の両戦役は「デビュー」にすぎない。そして国際連盟が誕生したのは、第一次世界大戦という世界の二十五か国が参戦した人類史上未曽有の大戦争があったからだ。その惨禍を繰り返すまいという反省の下に、国際連盟(英語名 League of Nations)という人類始まって以来の組織が作られたのだが、残念ながらその戦争抑止機能はうまく働かず、結果的に第二次世界大戦を招いてしまった。

 そして、その第二次世界大戦の惨禍を繰り返すまいと今度は国際連合(略称「国連」。英語名 United Nations)が創設されたが、その戦争抑止能力も最近のロシアによるウクライナ侵攻という事態を見れば、やはり機能不全に陥っていることがわかるだろう。この欠陥は、核戦争を回避し人類の存続を図るためにはなんとしても改善しなければならないのだが、そのためにはまずなぜ国際連盟がうまくいかなかったのかを歴史上の問題としてきちんと分析する必要がある。

 従来のいわゆる「日本史」の本には、この第一次世界大戦の記述があまりにも少なすぎると、私は思う。日本史を書いているのだから「世界史の記述はできるだけ簡略にとどめたい」「日本がどのようにこの大戦に関わっていったのかを詳細に述べればよい」という意識が働くのだろう。くだらない考えである。

 この時代、日本は世界史に深く「参加」しているのだから、世界各国の歴史も大戦の進行状況も詳しく分析するのが「日本史」としても必要な作業なのである。前にも述べたように、クリミア戦争でロシア帝国が敗北したため、日露戦争のときにロシアは自国にとってもっとも有利である黒海では無く、艦隊運用には不向きなバルト海に海軍基地を置かざるを得なかった。だからこそ日本の聯合艦隊はロシアのバルチック艦隊に勝つことができたのである。

 いま、ロシアがウクライナの支配下にあったクリミアを最初に奪ったのも、その背景には黒海に艦隊基地を置くのがベストという強いこだわりがある。歴史はすべてつながっているのである。と言っても、実際に各国の状況を詳しく書けばそれこそ一冊の本になってしまうのでできるだけ簡略に記述しようとは思うのだが、ここ数回は「世界史の話」になってしまうことはご了解願いたい。もちろんそれは結局「日本史の話」でもあるのだが、そういう意識が無いと日本人は今後、平沼騏一郎首相が一九三九年(昭和14)に「欧洲の天地は複雑怪奇」として政権を放り出したのと同じ轍を踏むことになるだろう。

 第一次世界大戦のきっかけは、日本では第二次大隈重信内閣が成立した一九一四年(大正3)の六月二十八日、当時オーストリア=ハンガリー帝国領(現在はボスニア・ヘルツェゴビナ領)のサラエボを訪問していたオーストリア=ハンガリー帝国の帝位継承者フランツ・フェルディナント大公とその「妃」であったゾフィー・ホテクが、テロリストに暗殺されたことである。

 なぜ「妃」としたのかと言えば、彼女の貴族としての家格が低かったため「大公妃」の称号が許されず、二人の間に生まれた子供も帝位継承権が認められていなかったからで、まさに「複雑怪奇」なのだがこうしたことも細かく解説していくときりが無いので、このあたりにしておく。こうした事実は指摘はするが深入りはできるだけ避けたいので、興味のある方はご自分で調べていただきたい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

アメリカの実業家主催のパーティーに参加された三笠宮瑶子さま。写っている写真が物議を醸している(時事通信フォト)
【米実業家が「インスタ投稿」を削除】三笠宮瑶子さまに海外メーカーのサングラス“アンバサダー就任”騒動 宮内庁は「御就任されているとは承知していない」
NEWSポストセブン
11月に不倫が報じられ、役職停止となった国民民主党の玉木雄一郎代表、相手のタレントは小泉みゆき(左・時事通信フォト、右・ブログより)
《国民・玉木代表が役職停止処分》お相手の元グラドル・小泉みゆき「連絡は取れているんですが…」観光大使つとめる高松市が答えた“意外な現状”
NEWSポストセブン
10月末に行なわれたデモ。参加者は新撰組の衣装に扮し、横断幕を掲げた。巨大なデコトラックも動員
《男性向けサービスの特殊浴場店が暴力団にNO!》「無法地帯」茨城の歓楽街で「新撰組コスプレ暴排デモ」が行なわれた真相
NEWSポストセブン
秋田県ではクマの出没について注意喚起している(同県HPより)
「クマにお歌を教えてあげたよ」秋田県で人身被害が拡大…背景にあった獣と共存してきた山間集落の消滅
NEWSポストセブン
姜卓君被告(本人SNSより)。右は現在の靖国神社
《靖国神社にトイレの落書き》日本在住の中国人被告(29)は「処理水放出が許せなかった」と動機語るも…共犯者と「海鮮居酒屋で前夜祭」の“矛盾”
NEWSポストセブン
公選法違反で逮捕された田淵容疑者(左)。右は女性スタッフ
「猫耳のカチューシャはマストで」「ガンガンバズらせようよ」選挙法違反で逮捕の医師らが女性スタッフの前でノリノリで行なっていた“奇行”の数々 「クリニックの前に警察がいる」と慌てふためいて…【半ケツビラ配り】
NEWSポストセブン
「ホワイトハウス表敬訪問」問題で悩まされる大谷翔平(写真/AFLO)
大谷翔平を悩ます、優勝チームの「ホワイトハウス表敬訪問」問題 トランプ氏と対面となれば辞退する同僚が続出か 外交問題に発展する最悪シナリオも
女性セブン
2025年にはデビュー40周年を控える磯野貴理子
《1円玉の小銭持ち歩く磯野貴理子》24歳年下元夫と暮らした「愛の巣」に今もこだわる理由、還暦直前に超高級マンションのローンを完済「いまは仕事もマイペースで幸せです」
NEWSポストセブン
医療機関から出てくるNumber_iの平野紫耀と神宮寺勇太
《走り続けた再デビューの1年》Number_i、仕事の間隙を縫って3人揃って医療機関へメンテナンス 徹底した体調管理のもと大忙しの年末へ
女性セブン
白鵬(右)の引退試合にも登場した甥のムンフイデレ(時事通信フォト)
元横綱・白鵬の宮城野親方 弟子のいじめ問題での部屋閉鎖が長引き“期待の甥っ子”ら新弟子候補たちは入門できず宙ぶらりん状態
週刊ポスト
大谷(時事通信フォト)のシーズンを支え続けた真美子夫人(AFLO)
《真美子さんのサポートも》大谷翔平の新通訳候補に急浮上した“新たな日本人女性”の存在「子育て経験」「犬」「バスケ」の共通点
NEWSポストセブン
自身のInstagramで離婚を発表した菊川怜
《離婚で好感度ダウンは過去のこと》資産400億円実業家と離婚の菊川怜もバラエティーで脚光浴びるのは確実か ママタレが離婚後も活躍する条件は「経済力と学歴」 
NEWSポストセブン