7月場所で優勝を飾り、大関昇進を果たした豊昇龍(24)。叔父である名横綱の朝青龍とは見た目がそっくりで、気合の入った一番では、朝青龍が塩を取りに行く時に見せた廻しを叩くパフォーマンスを真似することもあるが、偉大な叔父と重ね合わせられる一面があるからこそ、首をもたげる懸念もある。
朝青龍は2010年に現役横綱でありながら酒に酔って暴力トラブルを起こし、横綱審議委員会から史上初となる引退勧告を受け、現役を退いた。「相撲センスだけでなく素行面でも“第2の朝青龍”とならないだろうか」(協会関係者)という声も聞こえてくる。そんな質問を立浪親方(元小結・旭豊)にぶつけると、「それはないね」と断じた。
「勝気な性格は叔父譲りかもしれないが、あくまで土俵上でのこと。すぐに叔父さんと比較されるが、素直でいい子ですよ。暴力とかは全くない。付け人にも気を使っています。付け人は部屋から貸しているんだから、対応には気を付けるように言ってあるし、うちの部屋は兄弟子たちもしっかりしているから」
朝青龍からも酒を控えるように言いつけられているといい、初優勝翌日の会見では豊昇龍自身が、「そんなにお酒を飲まないが、昨日はちょっと飲んだ。久しぶりに飲んでおいしかった」とコメントしている。
「型」がなくて大丈夫か
朝青龍とは「環境面の違いもある」とするのはベテラン相撲記者だ。
「朝青龍も入門時は稽古熱心な力士だったが、出世するにつれて交際範囲が広がり、変わっていった。高砂親方(当時、元大関・朝潮)が放任主義だったことも大きかった。
豊昇龍も同じように変わってしまう可能性がないとは言えないが、立浪部屋は人間関係が密で、イジメや暴力と無縁なことで知られる。兄弟子もできた力士が多い。奄美出身で、稀勢の里(現・二所ノ関親方)や高安のようなたたき上げ力士を尊敬する明生、その兄弟子の天空海が目を光らせています。先輩たちが率先して手本を見せるタイプだから、豊昇龍も稽古に熱が入っています」
ただ、大関として土俵に上がるとなると、豊昇龍の相撲に「型がない」ことも気になる。基本的には右四つを得意とするが、寄り切れないとなると内掛けなどの足技を繰り出す。“サーカス相撲”で館内を沸かせることもあるが、「大関としては型があったほうが成績は安定する」(同前)との声が根強くある。その点についても改めて立浪親方に聞くと、こう話すのだった。
「最近は正攻法の相撲が増えてきているように思うし、今回の優勝決定戦の北勝富士戦のような前に出て行く相撲が取れたらいいと思います。優勝できて、大関に昇進できたことで、相撲も一皮むけると思いますよ」
9月場所は、大関としてどんな相撲を見せるか。
※週刊ポスト2023年8月11日号