【書評】『特攻服少女と1825日』/比嘉健二・著/小学館/1650円
【評者】岩井志麻子(作家)
私が『ティーンズロード』(通称TR)を読んでいたのは、岡山県の主婦だった頃だ。
当時はパソコンだのスマホだの影も形もなく、日常の娯楽はテレビと雑誌だった。
特にTRだけは、欠かさず買っていた。私は優等生でもお嬢様でもなかったが、不良や暴走族だったこともない。平穏な主婦には、雑誌のメインを張る十代の不良少女、レディースと呼ばれた女暴走族の面々とは、ほぼ環境の共通点も重なる心情もなかった。
ゆえにTRはまるで外国が舞台の映画とか、違う時代が設定の漫画みたいなもので、とことんエンタメとして楽しめたのかもしれない。
「旦那は服役中」と笑顔を見せる、暴走族OGのイケイケ美人。「歳の離れた極道の子を未婚のまま産んだ」と語る、やつれ方が色っぽい元ヤン。先輩のスナックでバイトしている、「今このときすべてが青春」とキメ顔をする金髪のあどけない現役レディース。
紫優嬢すえこ、女連のぶこ、胡蝶蘭ひろみ、TRのスターだった総長達ももちろん覚えているが、一回きりの登場や、何度か出たけれどさほど大きく扱われなかったレディース達を、奇妙なほど記憶している。私好みの物語や、想像をかき立てる何かがあったのだ。
人気者を追うのもときめくが、私だけのアイドル、マニアックな推しを探すのも一興だった。それとは別に、不良達のドキュメンタリー記事などかなり硬派だったし、意外と感傷的かつ乙女なヤンキー少女達の独白なども、深く読ませる内容だった。
しかし次第にTRと私は、奇妙に歩調を揃えていく。時代の趨勢で雑誌に勢いがなくなるのと合わせるかのように、私は夫婦仲が悪くなり、TRの休刊とほぼ同時に離婚した。
TRが書店からなくなってしばらくして、私は遅ればせの不良少女となり、ひとり暴走族として東京に全開バリバリで駆けていった。そうして親しくなったノンフィクション作家に紹介されたのが、TRを立ち上げ、その軌跡を本にして小学館ノンフィクション大賞を受賞した比嘉健二さんだ。「大好きだったんですよ、TR」と叫んでいた。
現役カッコいいヤンキーみたいな比嘉さんは、照れておられた。ああ、こんなだから少女達に受け入れられたんだと、私もヤンキー少女の顔になってしまった。そして『特攻服少女と1825日』を読み終えて、また叫んだ。TRは私の青春だった、よろしく!
【プロフィール】
岩井志麻子(いわい・しまこ)/作家。1964年、岡山県生まれ。1999年、短編「ぼっけえ、きょうてえ」で第6回日本ホラー小説大賞を受賞。また、同作に書き下ろし3編を加えた同題の短編集で第13回山本周五郎賞を受賞。近著は「煉獄蝶々」(KADOKAWA)。
※女性セブン2023年8月17・24日号