この夏、ドラマの放送開始や映画の公開まで事前情報を一切明かさない作品が注目を集めている。いずれも手掛けるのは大物ばかり。宮崎駿監督と鈴木敏夫プロデューサー、脚本家の野島伸司氏、福澤克雄監督。彼らはなぜこうした手法をとったのか――。コラムニストでテレビ解説者の木村隆志さんが解説する。
* * *
8月6日(日)22時からドラマ『何曜日に生まれたの』(ABC・テレビ朝日系)がスタートします。
特筆すべきは、7月2日に夏ドラマの口火を切った同じ日曜22時台の『CODE―願いの代償―』(日本テレビ系)から1か月以上遅いスタートであるにもかかわらず、内容に“謎”が多いこと。同作は他のドラマ枠がPR合戦を行っているときも、飯豊まりえさんが主演を務めること以外は、「ラブストーリーか、ミステリーか、人間ドラマか、社会派か、先が読めない予測不能の作品」であることしか明かされませんでした。
その後、6月末にようやく9人のメインキャストと第1話のあらすじが発表されましたが、依然として「どんなジャンルのどんなテーマの作品なのか」は不明。地上波・プライム帯ともに5年ぶりの連ドラ脚本となる野島伸司さんがはたしてどんな物語を手がけるのか注目を集めています。
“謎”と言えば、先月公開された宮崎駿監督と鈴木敏夫プロデューサーの映画『君たちはどう生きるか』は、それ以上に事前情報が伏せられていました。さらにTBSが豪華キャストをそろえて国内外のロケを行った大作『VIVANT』も、第1話の放送までキャスト以外は、ほぼ謎に包まれていました。
脚本家・野島伸司さん、宮崎駿監督と鈴木敏夫プロデューサー、TBSの福澤克雄監督。それぞれ立場の異なる大物クリエイターたちは、今夏になぜ“謎”を仕掛けたのでしょうか。
宣伝より質を上げて数字につなげる
実は実績のある大御所クリエイターほど、むしろ「興行成績や視聴率に一喜一憂しない」と言われていて、私自身の取材経験上でもそんな傾向がありました。すでに実績を挙げているためか、数字よりも「いかに質を上げるか。視聴者を楽しませるか」に注力し、「面白いものを作れば見てもらえるはず」という考え方のようなのです。
実際、鈴木敏夫プロデューサーは複数のインタビューで、「多額の宣伝費をかけたからではなく、作品として面白ければ結果は得られる」というニュアンスで語っていました。その点、事前情報がない状態で映画を見た人々が「ふだんより物語や映像に没頭できた」などとネット上に書き込んでいるのは「狙い通り」と言ってよさそうです。