【著者インタビュー】石田夏穂さん/『黄金比の縁』/集英社/1650円
【本の内容】
《私は週末に髪を切り、今朝は例年以上に凜々しい眉を描いた。今年度はこのスタイルで行くと決めた。本人としては天海祐希を追求した結果である。/太田と中村は次の電車で来た。我々はおざなりな挨拶を交わすと西遊記のように東京ビッグサイトを目指す、けっこう長い旅路の人となった》。主人公は、10年前に人事部に異動になった小野さん。不当な異動を行った会社に復讐するため、会社の不利益になる人間を「ある評価軸」にそって採用し始める—想像もつかない小野さんの企みが人事採用の不都合な真実を炙り出す様を淡々と、ユーモラスに描き出す。
石田夏穂さんの『黄金比の縁』は、企業の人事部という、ある意味、ブラックボックスのような場所を題材にしている。
「自分も何年か前に就職活動を経験して、そのときは採用担当がすごい人たちに見えていたんです。でも会社に入って6、7年たってふつうにしゃべるようになると、あれ、こんな気さくだったの? こんな人だったの? って思うようになって。外から見るときと内から見るときのギャップみたいなものを書いたら面白いんじゃないかと思いました。
自分がどこを評価されたのか、誰が推してくれたのかもわからないままだし、1000人規模の会社で、3人とは言わないまでも割と少数で決めているのも結構な衝撃でした」
石田さん自身、新卒で入った会社にいまも勤めている。入社当時、50人ぐらいいた同期はいま半分以下になっているそうだ。
「別にうちの会社の人事が悪いわけじゃなく、他の会社もだいたい同じようなものだと思うんですけど、人間が人間を選ぶって難しいですよね。パっと会って10分ぐらいじゃ絶対わからない。10年ぐらい働いてみないとわからないと思うんです。しかたないから、はっきりした理由なしに、なんとなくよさそうなやつを選んでるんじゃないか。かなりグレーなところがあるのに建前ではそうではないようにふるまっている」