暦の上では秋が始まる「立秋」を過ぎても、暑い日が続いている。熱中症予防として外出を控えている今こそ、涼しい室内で本と向き合う絶好の機会だ。おすすめの新刊を紹介する。
『ジュリーがいた 沢田研二、56年の光芒』/島崎今日子/文藝春秋/1980円
1967年ザ・タイガースとしてデビューし、GSブームを牽引。1971年にソロデビューしてからは甘美なヴォイスと凝った衣装で時代を華麗に彩ったジュリー。俳優としての評価も高く、近年では2022年公開の映画『土を喰らう十二ヵ月』で主演男優賞を複数受賞している。ジュリーの光を浴びてきた著者が、本人不在のまま、膨大な証言で時代の変遷を刻印する同時代ノンフィクション。
『いい子のあくび』/高瀬隼子/集英社/1760円
ずっといい子でやってきた「私」(佐元直子)は、いい子以外の行動がとれない。例えば直進してくる歩きスマホ。なぜ自分は道を譲ってしまうのか。ある日譲らない挙に出る。ぶつかってきた男子中学生は恋人の大地が勤務する中学の生徒で‥‥というところで話が終わらないのがこの表題作の魔力。仕事でも恋愛でも“消費”されるばかりの自分に自分で反乱を起こす展開が刺激的。
『ツユクサナツコの一生』/益田ミリ/新潮社/1980円
昼はドーナツ店でバイトし、帰宅後は好きな漫画を描いてインスタグラムに投稿している30代のナツコ。世はコロナ禍、父のワクチン接種予約に難儀し、合葬式墓地に母を納骨し、東京の姉が2年ぶりに帰省し、常連客のお洒落なおじいさんは認知症が進むなど、日常と非日常が入り交じる。その感慨が作中作の漫画に繋がる。作家が創作の衝動を公開しているようで、興味深い。
『ボニン浄土』/宇佐美まこと/小学館文庫/902円
初読時、なんてスケールの大きな物語だろうと感嘆。小笠原諸島に青い眼の先住民がいたというのも史実なら、無人がなまってボニンと呼ばれていたというのも事実だ。物語は江戸時代に島に漂着した吉之助のパートと、現代のパートで進む。現代は小笠原と因縁を持つ中年男性・恒一郎と、チェロの天才少年・賢人で、合計3つのパートで小笠原の歴史が躍動し始めるのが快感。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年8月17・24日号