2023年夏、コロナ禍で中止されていた花火大会が全国で次々に復活を遂げている。なかでも注目されたのは、東京の夏の風物詩、隅田川花火大会。過去最高の約103万5千人が4年ぶりに夜空に打ち上がった2万発の花火に感嘆の声をあげた。
「都会で行なわれる歴史ある花火大会で、我々にとって憧れの存在です。隅田川花火大会の復活は、全国の関係者に勇気と希望をもたらしてくれました」
こう語るのは、1954(昭和29)年創業の歴史を誇る煙火店「株式会社マルゴー」の齊木智社長。コロナ禍の3年間は社員を守ることに必死だったという。
「社員を守ることは、すなわち会社を守ること。守るためには仕事を作り出さなくてはならない。そうしたなかで、これまで花火を上げさせてくれていた主催者や地域の方々、見に来てくれるお客さんたちの大切さや感謝の気持ちを改めて感じることができました」(齊木氏)
2023年4月に開催が発表されて以降、伝統ある大会でオリジナリティある表現を演出するため、思いを込めて製作を続けてきた。出品した花火は、争いのない平和な世界への願いを込め、同社の得意とする、夜空に鮮明に浮かび上がる色の“濃さ”と“グラデーション”を生かした神秘的な光を表現。観衆を魅了した。
「うちは、たった一人の花火職人の技ではなく、チーム一丸となっての製作。花火を見るというのは、上を見上げるということ。花火を見る人々に元気や勇気を与え、希望の光となれたなら、これ以上嬉しいことはありません」(齊木氏)
満天の夜空に輝く大輪の花が、鬱々とした3年間を吹き飛ばす夏となりそうだ。
取材・文/小野雅彦
※週刊ポスト2023年8月18・25日号