放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、真打になった立川小春志の花嫁姿について綴る。
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夏になると両親やら師匠達のことを柄にもなく想い出す。今一番会ってみたいのはやはり母親だ。「時間と他人にルーズなのを田舎っぺと言うんだよ」とピシャリ言う、ちゃきちゃきの東京の人だった。
私の師匠にあたるのはクレージーキャッツ、ドリフターズの演出を手掛けた日劇の塚田茂。放送作家として『夜のヒットスタジオ』の企画などでテレビ界では超有名。生き方、暮らし方、芸人との距離の置き方などをサラリと教えてくれた永六輔。「芸」の方の師匠はご存じ立川談志。この3人の濃すぎる血が私の中に流れている。今の若い人に言わせれば「オールド・エンターテインメント」とでも。
しかしAIもいいが、ものを生み出すには職人同様、師から弟子へというのがいい。“師弟関係”だ。私は渋谷生まれだから“師弟”というより“シティ派”ではあるが。
7月30日、コクショ(さゆりではない)の中、昼間明治記念館で新しい真打の大々的な披露パーティ。前夜の隅田川花火大会に負けない人出だった。18歳の鼻ったれ小僧だった立川談春が談志から「噺家とつきあうと世間知らずのバカになるから、お前と志らくは高田のところへ行って水割りでも作ってろ」。昼は談志の世話、夜は私の身のまわり。その小僧が立派になって今や立川談春師匠。女の子の弟子で“こはる”と名乗ってたのが17年間つとめあげこの度「小春志」となって真打昇進。
きびしい師匠なので何人も入って来てはみな辞めていった。ひとりこはるが弟子修業をガンバッた。それを知ってるから500人の出席者みんな温かく門出を祝った。
何がおどろいたって途中、宴会場からいなくなったと思ったらMCが「それでは新真打のお色直しも済みました」と出てきたら見事な花嫁姿。きれいな角隠しである。談春「私は止めたんですが、当人がどうしても、ときかないんです」。きっと真打披露も結婚披露も人生の披露目、全部ここで済ましちゃえという料簡だったのだろう。
最後の大締め、志の輔、志らく等一門ズラリ並ぶ壇上へあがった私。第一声が「茶番です」。ドッカーン。うける。「しかし大師匠談志が見たらよくやったとほめたと思います」。“花婿にドタキャンされた花嫁”みたいな小春志泣き笑い。鬼の目にも涙。談春が嬉しそう。これでよかったのだ。
翌31日、私のラジオへ神田伯山来て「新しい弟子2人見てもらおうと思いまして、青之丞と若之丞です。一番弟子の梅之丞は仕事へ行っちゃって」。こうして子供だと思ってた連中が芸の親になっていく。師弟。
※週刊ポスト2023年8月18・25日号