特急と呼ばれる特別急行列車に乗ろうというときは、目的地に速く到着できるだけでなく、普通列車では味わえない気分を楽しみたいものだ。新幹線網の発達によって全国的には減少している印象が強い特急だが、私鉄では唯一の乗り心地を提供する新型特急車両の投入が相次いでいる。ライターの小川裕夫氏が、東武鉄道「スペーシアX」など、特急をめぐる近年の動向についてレポートする。
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2023年7月15日、東武鉄道は新型特急列車「スペーシアX」の運行を開始した。スペーシアXは東武の拠点となっている浅草駅と東武日光駅・鬼怒川温泉駅を結ぶ新型特急で、東武はこれまでにも看板列車のスペーシアを運行してきた。スペーシアXの運行開始は、いわば東武が浅草―日光・鬼怒川といった観光地に引き続き力を入れていくという宣言でもある。
2020年から感染拡大した新型コロナウイルスは観光業界に大きな影を落とし、それは鉄道業界にも大打撃を与えた。
鉄道業界を危機に陥れたコロナ禍だったが、今年に入って国内観光客や訪日外国人観光客は回復基調にある。
しかし、東武は以前から浅草から国際的に観光地として人気の高い日光や高度経済成長期に開発に傾注した鬼怒川とを結ぶ特急列車を運行している。このほど、新たにデビューしたスペーシアXは回復基調にある観光需要だけを見て、いきなり登場したわけではない。コロナ禍以前から着々と準備を進めてきた。
「新たにデビューするスペーシアXは、これまで運行してきた100系スペーシアの後継と位置付けています。スペーシアXは日光観光の象徴となるような車両の開発をコンセプトにしています。乗車される旅行者一人ひとりに自分だけの最適な日光、最適な乗車感を提供することで、特急による日光観光の満足度を向上させ、リピーターが増加することを目指しています」と話すのは、東武の広報担当者だ。
車内にカフェカウンターのある特急
スペーシアXには、プライベートジェットをイメージして設計・デザインされたコクピットスイートと呼ばれる約11.1平方メートルの個室があり、コクピットスイートからは前面・側面の窓から広い展望を堪能できる。