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返却されないパルスオキシメーター 「借りパク」状態の人たちの言い分

血液中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーター。新型コロナウイルスに感染した自宅療養者らに貸し出されていた(イメージ)

血液中の酸素飽和度を測定するパルスオキシメーター。新型コロナウイルスに感染した自宅療養者らに貸し出されていた(イメージ)

 借りた物を返さず自分の物にしてしまうこと、貸した物を相手に盗まれることを俗に「借りパク」と言うが、そこに蔑みの意味が込められているように、借りパクしたと言われることを人は嫌う。ところが相手が役所など公の存在だったり、安価なものであったりすると「借りパクしないようにしなければ」という警戒心が薄れるようだ。人々の日常や常識の変化を観察し、記録している日野百草氏が、新型コロナウイルスに感染し自宅療養のために貸し出されたパルスオキシメーターを、療養後も自治体へ返却していない人たちに借りパク疑いの事情を聞いた。

 * * *
「どこに行ったかわからないのよ、あれ。捨てちゃったかもしれない。返そうとは思ってたんだけどね」

 板橋区に住む60代女性が行方不明の「あれ」について話してくれた。コロナ禍、自宅療養用に貸し出された「パルスオキシメーター」のことである。指を挟むなどで動脈血酸素飽和度(SpO2)と脈拍数を測定する装置である。とくに初期のコロナ禍では肺炎による重症化が目立ったため、酸素飽和度の低下が簡易な判断材料として使われた。

「でも日本中でそんなに返してないなら、みんな返すのは無理なんじゃないかな、うーん、そういうことよね」

 いつも明るく多弁な女性だが、この件になると口数は減る。ただし「日本中でそんなに返してない」は事実で、新聞報道によれば首都圏4都県では少なくとも21万台、約10億円分が未返却とされる。

 もちろん全国的な問題で、別の新聞報道では日本全国で30万個を超えるとする報道もある。自治体が把握している数としては新潟県が1万個、神奈川県が7000個、千葉県が5000個、島根県が2600個、鳥取県が1400個、茨城県が450個、群馬県が300個の「未返却」とされる(実数はそれ以上と推測する)。東京都は43万中の7万個が未返却で、小池百合子東京都知事は6月23日、「返していない人は早く返していただきたい」と改めて返却を求めた。

液晶がおかしくなっちゃったから捨てちゃったよ

 足立区は2022年3月の段階で『パルスオキシメーターの返却にご協力をお願いします』という以下の「お願い」を掲出している。

〈新型コロナウイルス感染症と診断され足立保健所が健康観察を実施した方へ足立区からパルスオキシメーターを貸出しました。回復後は返却をお願いしていますが、返却くださらない方が一部いらっしゃいます。次に必要とされる方のためにも必ず返却してください。足立保健所からパルスオキシメーターを貸出しさせていただいた方で療養期間終了後、7日以上経っている方、特に令和3年9月末までに貸出させていただいた方については、直ちに返却してください ※東京都から直接借りた方は返却方法を下記連絡先にご確認ください〉

 一部を抄出したが、各自治体の貸与には返却用の封筒も付属している。それでも全国で30万個、正確な実数としてはさらに多い数が返却されていない。今回のルポでも数は多くないとはいえ、聞けば「返してない」という人は容易に見つかった。

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