【著者インタビュー】木内昇さん/『かたばみ』/KADOKAWA/2585円
【本の内容】
山岡悌子は、生まれ故郷の岐阜から上京し、日本女子体育専門学校へ進み、やり投げ選手としての活躍が嘱望されていたが、肩を壊して国民学校の代用教員となる。時は昭和18年、太平洋戦争の影響が色濃くなっていた。幼なじみで「許婚」と思っていた早稲田大学野球部のエース神代清一が別の女性と結婚、下宿先の家族と心を通わせながら、教師として生徒と向き合う人生を選ぶ。そんな悌子が、下宿先の家主の兄である権蔵とともに、戦争で亡くなった清一の息子・清太を育てることに。戦争に負け、しかし軍国主義を脱した東京で、「家族」として生きる3人の未来は──。
明日も会いたいと楽しみにしてもらえる登場人物に
敗戦から今年で78年になる。木内昇さんの新刊『かたばみ』は、戦後の混乱期を生きる、血のつながらない親子の物語である。
物語のはじまりは太平洋戦争中の昭和18年。肩の強さと体格の良さを見込まれ、体育専門学校でやり投げに打ち込んでいた悌子だが、競技人生をあきらめ、国民学校の代用教員になることを決める。一方の権蔵は体が弱く、徴兵検査も丙種合格で召集されず、肩身の狭い思いをしながら、浅草の立ち飲み屋で知り合った六助に誘われラジオの機材を運搬する仕事をしている。
男は強くたくましく、女は優しくしとやかに。世の中の「こうあるべき」から大きく外れたところにいる2人の物語が、悌子が下宿した惣菜店の店主が権蔵の妹だったことで交差する。
悌子が結婚を夢見ていた幼なじみの清一は、出征を前に別の人と結婚してしまい、思いがけないなりゆきで悌子は子ども嫌いの権蔵と結婚することに。
新聞に連載中も大人気で、読者からの反響も大きかった。真っ正直で不器用な悌子と、ひねくれもので世の中に流されない権蔵、対照的な2人の魅力も大きかっただろう。
「原稿用紙2枚半ぐらいの短い分量のなかに毎日、何か引っかかる部分をつくることと、明日もまたこの人たちに会いたいと楽しみにしてもらえる登場人物にしたいなと思いました」