『80歳の壁』など数々のベストセラーを生み出した和田秀樹医師が、「58歳から元気になる方法」をテーマに、50代から60代の現役世代の悩みに答える。今回は、加齢により自宅での日常生活に困難が生じ始めた80代の老親が、それでも「デイサービスに行きたくない」とごねた場合の対処法について語ってもらった。
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「うちの親は施設が嫌い」は子供の思い込み?
私の知る限り、高齢になって日常生活の介護や介助が必要になった時に、デイサービスや施設に「行きたがらない」という人はおそらく5割近い確率で出現します。ところが、いざ利用してみると、「スタッフが愛想良くしてくれる」「そこで新しい友達ができる」などの理由から、いつの間にか楽しんで出掛けるようになる人が多いのも事実です。
公的介護保険が2000年にスタートして、もう20年以上が経ちます。この間、介護スタッフの高齢者ケアの技術・ノウハウは、それ以前に比べて飛躍的に進化したと言っていいでしょう。
例えば、かつての高齢者介護の現場では、認知症の初期症状が見られる程度の元気な利用者に対しても、デイサービスや施設のレクリエーションで子供の頃に覚えた童謡を歌わせたりしていました。
認知症の中核症状である「記憶障害」では短期記憶(直近や最近に覚えたこと)から失われるため、幼い頃の記憶(長期記憶)がまだ残る時点であれば、童謡を歌うことが利用者を楽しませ、心身にとってよいと考えられていたからです。
しかし、認知症になったからといって誰もが“子供がえり”するわけではなく、童謡を歌ってみんなが楽しいということはありません。そのため、認知症の初期や頭がしっかりした高齢者であるほど、そうした施設に集まること自体に忌避感を覚える人が多くいたのも事実です。
介護の各現場でそうした経験(施設を利用する高齢者にも多様なニーズがあるとの理解)が蓄積された結果、現在は「みんな一緒に童謡を」ではなく、その人がカラオケで好きな曲を歌ったりすることができるようになってきました。そのうち、彼らが青春時代に夢中になったビートルズの楽曲などをみんなで演奏したり歌ったりする光景が当たり前になるでしょう。
そのように、訪れた高齢者に機嫌よく楽しんでもらうために、あらゆる工夫が実践されているのが現在のデイサービスや施設です。