アイドルグループのキャンディーズは、今年でデビュー50周年を迎える。メンバーの伊藤蘭、田中好子、藤村美樹は大学生を中心に人気を誇っていたが、1978年に人気絶頂のなか解散する。そして、キャンディーズのラストシングルとなったのは『微笑がえし』。その作詞を担当した阿木燿子さんが、当時の思い出を振り返る。
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「キャンディーズのラストソングをお願いできますか」。そう声をかけてくださったのは、山口百恵さんの楽曲制作などでお世話になっていた音楽プロデューサーの酒井政利さんでした。
私がキャンディーズの作詞を依頼されたのはこの時が初めてでした。それまでは音楽番組はもちろん、バラエティでも活躍する姿を拝見して、アイドルというよりプロフェッショナルなエンターテイナーという印象を持っていたので、とても名誉なことだと思いました。
彼女たちの魅力は三人三様の個性がありつつ、一緒になると何十倍もの力を発揮すること。「僕はランちゃん派」とか、ファンの間で“推し”が被らなかったのは、その証拠ですよね。
「微笑がえし」は詞が先でした。キャンディーズには明るいお別れの方が似合いますから、新しい世界にお引っ越しをする3人がファンに向けて歌でお返しをする。そう考えたら、造語ですけど「微笑がえし」というタイトルが浮かびました。そして彼女たちのヒット曲のタイトルを織り込むという仕掛けも閃きました。「春一番」をはじめ、明るく爽やかで可愛らしい曲名が多かったので、詞のフレーズに使えるなと思ったのです。それほど苦労せず、楽しく書けたと記憶しています。
完成した曲は歌声やサウンドからも明るい未来が感じられて、キャンディーズの3人も、聴いてくださる方も、湿っぽいお別れではなく、「じゃあ、行ってくるね」「行ってらっしゃい」と感じていただける曲になったのではと自負しています。
それから41年後の2019年。ソロの音楽活動を開始した伊藤蘭さんに詞を提供するご縁に恵まれました。蘭さんのイメージから、大人の女性のキュートさをテーマにした詞を書かせていただきました。ステージを拝見したら、普段は控えめな方が、あの頃のランちゃんになっている。その姿がとてもチャーミングで感動しました。
【プロフィール】
阿木燿子(あき・ようこ)/作詞家、作家、プロデューサー。宇崎竜童と結婚後、作詞家デビューし、数多くのヒットを放つ。小説の執筆など幅広く活躍。2018年に旭日小綬章を受章
取材・文/濱口英樹
※週刊ポスト2023年8月18・25日号