人生最期の瞬間に後悔しないために、「あの人」はどんな生活を送っていたのだろうか──。その家族や知人が証言する「自分らしい生き様」から学ぶことは多いはずだ。プロ野球界の名選手にして名伯楽だった野村克也さん(享年84)の晩年は、実に “らしい”ものだった。
2020年2月に亡くなって早3年半、いまだに名言集が刊行される人気を誇るノムさん。義理の息子の団野村さんは「監督は天邪鬼でした」と振り返る。
「昔から思ったことを口に出さない人でした。晩年に『もう監督はしないのですか?』と聞くと、『俺は80歳を超えたからな』と答えるけど、心の中では監督をしたがっていたはずです。人を観察するのが仕事だから、自分の本心を知られたくなかったんでしょう」
本心を明かさないノムさんの絶好のパートナーが妻の沙知代さんだった。
「監督は本心を言わないから、周りが察しないといけない。その能力が完璧だったのがサッチーでした。何でも『イヤだ』から始まる監督に対し、『イヤじゃないわよ。働きなさい』と尻を叩くのが彼女の役割。すると監督は『俺をこき使うな』とボヤきながら、何だか嬉しそうに仕事をしていました。最高のコンビでしたね」(団さん)
だが2017年12月、前日まで元気だった沙知代さんが急逝すると、ノムさんは急速に元気を失った。
「自分のことを理解してくれる人がいなくなって、寂しかったんでしょうね。生前はサッチーのことは一切言わなかったのに、亡くなってからは口を開くと『俺より先に逝きやがって……』『いなくなって困っている』『男って弱いなあ』と最後までボヤき続けていました。どこかもの哀しいボヤキでした」(団さん)
愛のあるボヤキこそがノムさんの人生だった。
※週刊ポスト2023年9月1日号