「お召し上がりいただきたい」「ひと目、見ていただきたい」「触れていただきたい」という思いとともに、全国から集まる「皇室献上品」。先日、宮内庁職員を騙り、福島県内の桃農家から“皇室献上品”として桃をだまし取ろうとした70代の男が逮捕される事件があったが、“正式な皇室献上品”は、本当に両陛下をはじめ、皇族方に届いているのだろうか。元宮内庁職員で皇室解説者の山下晋司さんが解説する。
「天皇陛下への献上品は侍従職に渡されますが、食材の場合は大膳課が調理等をすることになるでしょう。そして、食卓に出された際には『〇〇県からの献上品です』などと説明しているはずです。天皇皇后両陛下からのご感想やお礼が侍従などを通して都道府県側に伝えられることもあるかもしれませんね」
全国各地から届く献上品は、かなりの数になることが想像できる。特に旬の食材は、全国から同時期に集まる。
「献上でいただいた量などにもよるでしょうが、御所を訪れたお客様に振る舞ったり、職員がおすそわけにあずかったりすることもあるそうです」(山下さん)
献上品を残す、すなわち食べ物を粗末にすることはあってはならないというのは、皇室に脈々と受け継がれる思いのようだ。
「あるとき、昭和天皇のもとに数十本のぶりが献上されたことがありました。両手で抱えるほど立派なもので、すぐにはとても食べ切れず、冷凍庫に保存していました。あるとき冷凍庫の扉を開けた瞬間にぶりが飛び出してきて、厨房にゴロゴロと転がり騒動になったことを思い出します。毎日同じ食材ばかりでは飽きてしまうので、調理法や味つけを変えてお出しするなど大膳課も工夫していました」(宮内庁関係者)
献上品は、都道府県がとりまとめて宮内庁に申請する仕組み。つまり都道府県は、献上品にふさわしいものかどうかをしっかりと見極める責任があるということになる。
今年6月、千葉県内では名産品であるびわを献上するための選定が行われた。房州枇杷組合連合会に所属する8組合が1箱24粒ずつ出品し、審査員が色や形などを見定めたもので、いちばん大きなもので4Lサイズ、すべて露地栽培と献上品の名にふさわしい見事なものがズラリと並んだ。千葉県から皇室へのびわの献上は1909年に始まり、今回で107回目となる。
宮内庁の発表によると、「現在、新規の献上は基本的に受けつけていない」といい、近年では千葉のように慣例として献上されるものがほとんどだ。
「一方で、過去に献上したことがあるものを長年“皇室献上品”と銘打って商売をするケースも見受けられます。また、宮内庁を通す正式なルートでなく別ルートでの献上もないわけではない。例えば、宮内庁が把握していない宮家への献上品は、“宮家のお知り合いから直接届けられたもの”である可能性もゼロではありません。皇室献上品と銘打たれているものが、“本物”かどうかを見極めるのは意外と簡単ではないのです」(前出・宮内庁関係者)