放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、宮藤官九郎について綴る。
* * *
鼻を垂らした子供の頃から宮藤官九郎を知っている。いつも仲間とコントを作っては、仙台の放送局にいる私に見せに来ていた。ほとんど怒られていた。
「いつか誉めてもらう」と心して40年近く。そのクドカンがここへ来て怒濤のクリエイティブライフ。次々と質と量を伴う話題作。
ネットフリックスでは『離婚しようよ』。大石静と共同脚本。得意な設定をワンシーン書くと相手に渡し、それを受けとって相手が話の続きを書く。私が「いち早く広末涼子スタイルをとって交換日記的な?」と言ったらクドカン「手描きではなかったですけど」とナイスな答え。大人になった。地方選挙を闘う松坂桃李と別れそうな仲里依紗の手の込んだ話。
「週刊誌でもラジオでももっと僕を誉めて下さいよ。太田(爆問)さんと伯山ばっかり誉めて。時々センセーは誉めが浅い時があるんですよ」。“誉めが浅い”って初めてきいたわ、そんな言い方。「詰めが甘い」なら知ってるが「誉めが浅い」という言いまわし、金田一もびっくりだわ。
そしてディズニープラスで始まったのが私も思い入れのある『季節のない街』(原作・山本周五郎)。私が18歳の時、日芸で出会った同い歳の田島クン(のちに古今亭右朝となり名人間違いなしといわれたが52歳で早逝)、何しろ彼は18歳で200席という持ちネタ。一対一で毎日稽古。「高田は噺もクスグリ(ギャグ)も文句なし。落語の本質を分かろうとしたら人の機微が分かってないとな。他の時代小説家はいいから、山本周五郎だけ全部読め。キビが分かる」。時代劇を全部読んだが現代物の『季節のない街』が一番心に響いた。5年後、これが黒澤明監督の手によって『どですかでん』となった。
それから50年、なんとクドカンが監督・脚本で世に出すという。作品の持つ力に心がゆさぶられた。個性的すぎるノーコンプライアンスな人々の心と行動を描いていく。宮城出身のクドカンならではの“仮設住宅”というみごとな設定を思いつく。人情の機微というものを丹念に掘り下げてゆく。「センセーまだ誉めが浅いんじゃないんですか。キビもタップリでしょ」。これほどキビを欲しがるのは桃太郎のキジくらいだ。お世辞ぬきにいやっ本当。大傑作です。
そして銀幕には役者として登場。山田洋次監督『こんにちは、母さん』。吉永小百合、大泉洋と並んでの出演。これからのキャリアのためクドカンが山田組の現場を体験したことは今後の大衆芸能にとって、とてつもない財産となる。クドカンつぶやく「あとは貫禄が欲しい」。
※週刊ポスト2023年9月1日号