人生最期の瞬間に後悔しないために、「あの人」はどんな生活を送っていたのだろうか。その家族や知人が証言する「自分らしい生き様」から学ぶことは多いはずだ──。映画俳優やタレント、司会者としてマルチに活躍した宝田明さん(享年87)。娘の目からは、俳優であり父でもあった。宝田さんの娘で女優、歌手の児島未散さんが振り返る。
「父のことで思い出すのは自宅に役者仲間を呼んでワイワイと話す姿や、ふとした瞬間に表情やセリフの練習をしていた姿です。『マイ・フェア・レディ』や『南太平洋』の舞台が好きでよく見に行きましたが、きりっとした役者の顔を見せる半面、舞台裏では子供である私たちを気遣ってジュースやお菓子を用意してくれました。舞台上とのギャップが大きく、役者と父親の両面を見せてくれる懐の広い人でした」
舞台では明るく華やかだった宝田さんの晩年は孫にデレデレで甘く優しく、「いいジイジ」だった。
そんな宝田さんが生涯を通じて訴えたのが「不戦不争」だ。戦前に旧満州に移った宝田さんは引き揚げ時にソ連兵に右腹を撃たれ、激痛のなか、麻酔なしで弾丸を摘出する過酷な経験をした。
「引揚げ時の思い出から、父はサインを書く時、必ず名前と一緒に『不戦不争』と記しました。戦争体験者がどんどんいなくなるなかで、満州から引き揚げてきた生き証人として、戦争反対を後世に伝えていきたいと常々語っていた。父は役者でありつつ、生涯をかけて不戦の願いを誓い続けた人でした」(児島さん)
※週刊ポスト2023年9月1日号