この数年、惜しまれつつも“あっぱれ”な人生でこの世を去った有名人たち。その「自分らしい生き様」から学ぶことは多い──。大阪で「神田川本店」など高級料理を3店舗経営し『料理の鉄人』(フジテレビ系)やCMで人気を博した料理人の神田川俊郎さん(享年81)。
好角家としても知られた同氏は本誌・週刊ポストの相撲記事にもたびたび登場し、「今のお相撲さんは甘い。魚で言うたら、決まった時間にたっぷりと餌がもらえる養殖魚ですわ」などと料理人らしいコメントで楽しませてくれた。
そんな神田川さんは新型コロナに感染し、2021年4月に急逝した。突然の死に悲しみの声が溢れたが、16歳で修業を始めて81歳まで駆け抜けた料理人人生は「後悔のない生き方」そのものだった。
神田川さんの次女で神田川本店の女将を務める大竹可江さんが語る。
「80歳を超えてからも仕事に励み、市川團十郎さんや西武ライオンズとのコラボ企画なども進んでいました。料理の新作も考えて全国を飛び回っていた。父は根っからの仕事好きでした。
コロナに感染した時も、家族への連絡そっちのけでお客さんとは連絡を取っていたようです。父は仕事には穴をあけたことがない人でしたから」
コロナ感染から10日後に亡くなった神田川さん。隔離のため看取りはできなかったが、今も父の元気な姿は娘の瞼に焼き付いている。
「実は亡くなる前は女将をやっていなかったんです。亡くなる直前、父が“女将をしてほしいんや”と言って、表に『心の味評論家』の肩書をつけ、裏に『若女将』と入れた名刺をもらいました。
最期に立ち会えなかったので、逆に亡くなった感覚がなく、いつもニコニコと笑って板場に立つ顔が焼き付いたままです。もちろん悲しみはありますが、父の疲れた顔を見なかったのが救いかもしれません。私は父の遺志を受け継いで、女将として頑張っていこうと思います」(可江さん)
※週刊ポスト2023年9月1日号