ライフ

【新刊】コロナ禍に子供時代を過ごした世代の物語、瀬尾まいこ『私たちの世代は』など4冊

理不尽な日々があったからこそ出会えた生涯の宝物

理不尽な日々があったからこそ出会えた生涯の宝物

 厳しい残暑が続いている。熱中症を予防するためにも、涼しい部屋で読書に勤しんでみてはいかがだろう。おすすめの新刊を紹介する。

『私たちの世代は』/瀬尾まいこ/文藝春秋/1870円
“私たちの世代”とはコロナの一斉休校で通学できなかった子供達が20代になった時の呼び名(その意味では未来小説です)。「ディスタンス世代」「マスク世代」などと呼ばれる。就活の集団面接の場で知り合った冴と心晴。いじめや引きこもりなど彼女達のここまでが交互に語られ、それでもあの日々があったからこそ得られた“宝物”があったと。その宝物と今を歩む姿が素敵。

リベラルという大きな潮流の中で勃発する、細分化された差別の対立

リベラルという大きな潮流の中で勃発する、細分化された差別の対立

『世界はなぜ地獄になるのか』/橘玲/小学館新書/1078円
 世界(特に米国)で猛威をふるうキャンセルカルチャー。例えば日本でも、先の東京オリンピックで過去のいじめ事件が蒸し返された小山田圭吾氏が辞任に追い込まれた(個人的にはやり過ぎだと思う)。過去の言動を現在の価値観で裁くのはフェアな行為か(場合によると思う)。人種、民族、性別や性的指向などで細分化していく現代を俯瞰し、その愚かしさや不毛さを一覧する。

“推し活”に打ち込み、息をする。その切実さに打たれる

“推し活”に打ち込み、息をする。その切実さに打たれる

『推し、燃ゆ』/宇佐見りん/河出文庫/638円
 生きづらさを抱える高2の山下あかりは、何に対しても体が重い中、アイドルグループの上野真幸の推し活には夢中になれる。ブログも一定の評価を得る。が、その彼がファンを殴って炎上し……。英国の雑誌で「TikTok世代のキャッチャー・イン・ザ・ライ」と評された芥川賞受賞作(2021年)。あかりが推し活によってのみラクに呼吸しているかに見える現実の、この重みよ。

琵琶湖でオールロケした同名映画。2024年初夏の公開が待ち遠しい

琵琶湖でオールロケした同名映画。2024年初夏の公開が待ち遠しい

『湖の女たち』/吉田修一/新潮文庫/825円
 琵琶湖湖畔の介護施設で100歳の市島が亡くなる。人工呼吸器メーカーの製造ミスか、介護士の業務上過失か。物語は、介護士の佳代と刑事の圭介が堕ちるアブノーマルな性愛の罠、週刊誌記者の池田が医学界や製薬業界の闇を追って飛ぶハルビンと、思わぬ広がりを見せる。市島未亡人が回想する丹頂鶴の舞う平房湖(旧満州)が美しくも恐ろしい。湖のほとりにはナニカアル……。

文/温水ゆかり

※女性セブン2023年9月7日号

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン