かつてとは異なり偏見の目は和らぎ、以前と比較してリーズナブルな値段で手軽に受けられるようになった美容整形だが、光があれば影もある。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんは美容整形のカジュアル化についてこう警鐘を鳴らす。
「美容整形は自由診療のため、そこで起きた医療事故は患者の“自己責任”。公表されないことも多いのが現状です。例えば脂肪吸引のしすぎで腕を切断する羽目になるような、本当に深刻なケースでも表に出ることがない。そのため、患者さん一人ひとりの『自衛』が必要です」
10年間で総額1200万円をかけて整形し、現在は“整形アイドル”としてYouTubeで発信を続ける轟ちゃん(30才)も「整形に伴う失敗は深刻」と声を揃える。
「実際に私は鼻の整形を失敗して、やり直しのために200万円余計にかかってしまったことがある。たとえ後遺症がなく、客観的に見ればきれいでも『自分の思ったとおりの形にならなかった』という種類の失敗もあります。
また、10年前と比較すれば値段もハードルも間違いなく下がりましたが、決して業界全体の技術が上がっているわけではない。先生によってかなり腕に差があるため、執刀してくれる先生を選ぶ段階が整形における最重要事項だと思います」
ガイドラインが存在する病気の治療とは異なり、美容整形は病院も主治医も、場合によっては施術メニューすら患者に委ねられているのだから、その取捨選択が重要なのは自明だろう。『美容整形と化粧の社会学─プラスティックな身体』の著書があり、約20年にわたり整形について調査・研究をしている関西大学総合情報学部教授の谷本奈穂さんは「今後何らかのガイドラインが必要になるのでは」と指摘する。
「例えば、認知症の人が受けていいのか、何才から“自分の意思”と認めるべきか、など何らかの線引きや規定は作るべきだと思います」
特に多くの専門家が声を揃えたのは、未成年に親が美容整形を受けさせるリスクだ。SNSでは、《12才のときに“ブスだから”という理由で親に下手な二重にされた》という女性の投稿に大きな注目が集まった。
「私は美容整形に肯定的ですし、カジュアル化ももろ手を挙げて賛成したいですが、親が主導する未成年の整形手術には断固反対です。たとえ親が『きれいな方が将来あなたのためになる』と、よかれと思って受けさせたとしても、失敗したり、本人が気に入らなかった場合はどうするのか。
もし自分で決めたことならば失敗したとしても最終的には『自分が選んだことだから』と納得できるし、それも含めての自己決定権だと思う。だけど親であっても、子供の体に責任を取れませんよね。
誰かに何か意見したり行動させた場合、その結果として生じたことにはさせた人が責任を取る義務がある。しかし、とりわけ日本は他人と自分の境界線があいまいな人が多く、そうした意識が希薄に感じます」(作家の中村うさぎさん、以下同)