「手元の本の文字が読みにくくなってきた。とはいえ、老眼は誰にでも起きるものだから……」などと、放置してはいないだろうか。二本松眼科病院副院長の平松類医師がそうした考え方に警鐘を鳴らす。
「老眼は加齢によって起こります。老化が進む生活や老眼を放置して見えにくいまま過ごすと、同様に加齢が影響する白内障や緑内障のリスクを高めます」
老眼は手元が見えにくくなるため肩こりや頭痛、イライラや体調不良を誘発するが、それに限らずより深刻な目の病気と密接に関係しているという。
「眼球にはカメラのレンズにあたる役割を担う『水晶体』があります。その水晶体を収縮させる働きをする『毛様体筋』がスムーズに動くことで遠近のピントを調節しています。正常な目では、近くを見ている時は毛様体筋が緊張して水晶体は縮んで厚みを帯びます。
しかし、老化による水晶体の硬化や毛様体筋の衰えが進むと、水晶体が厚くならずに近くのピントが合わなくなるのです(別掲図)。一方、視界がぼやけていく白内障も水晶体の健康が損なわれ変性することで発症するため、老眼のケアをしないと白内障の悪化にもつながるのです」(平松医師、以下「 」内同)
近年はスマホの長時間利用が老眼のような状態を引き起こす「スマホ老眼」も問題視されている。スマホの画面を見続けると眼圧が上がって視野が欠けるなどのリスクがあることがわかってきた。眼圧が高まると視神経に障害が起きて視野が狭くなっていく緑内障のリスクを高めるという。
老眼は大抵の場合、40代から始まり70代くらいまでの間でゆっくりと進行していくため、つい簡単な対策で済ませたり、放置してしまいがちだ。
しかし、お手軽な対策では“痛い目”に遭いかねない。とりわけ注意すべきは老眼鏡選びだ。
「100円ショップなどで手軽に老眼鏡を買えるようになり、とりあえず使ってみるという人も少なくないでしょう。ただし、安価な老眼鏡は一人ひとりの視力に合わせて作られていないため、左右の視力の違いや乱視の有無などに対応しておらず、長時間使うと目に疲労が溜まって目の不調や目の病気の原因になりかねません」