芸能

水道橋博士が語る『福田村事件』 関東大震災から100年、これは「過去の話」ではない

提供:『福田村事件』プロジェクト2023

提供:『福田村事件』プロジェクト2023

 関東大震災が発生してから100年目にあたる今年9月1日、長く闇に葬られていた事件を描いた映画が公開される。タイトルは『福田村事件』(監督・森達也)。震災が発生した5日後、千葉県東葛飾郡福田村(当時)に住む100人以上の村人によって、香川から訪れた薬売りの行商団15人のうち、幼児や妊婦を含む9人が殺害された。

 震災直後、関東各地で地域の「自警団」や住民による「朝鮮人虐殺」が行なわれた。行商団は讃岐弁で話していたことから、朝鮮人と決めつけられて殺害されてしまう。「善良な住民」は、福田村で、そしてほかの町や村で、なぜ「虐殺行為」ができたのか。100年後を生きる私たちにとって、それは「過去の話」なのか。

 作品の中で重要な役割を果たす村の自警団のリーダーを演じた水道橋博士に、この映画は何を語りかけているか、私たちはそれをどう受け取るか、そして「自分がもっとも嫌いなタイプの人間」を演じた苦しさを聞いた。(前後編の前編。聞き手・石原壮一郎)

 * * *

デリケートな問題に切り込んでいくのが映画の本来の役割

──衝撃的な作品でした。この事件のことは、恥ずかしながら知りませんでした。

 もちろん,ボクも知りませんでした。過去にほとんど語られてこなかった事件で、メディアも取り上げるのが難しかったですからね。朝鮮人虐殺やその根底にある朝鮮人差別に加えて、被差別部落の問題も深く関係している。

 こうして映画になったのは、森達也監督ら関係者の執念のたまものです。関東大震災100年目の9月1日のタイムリミットに向けて、映画制作と公開へ向けてのすべての要因が偶然にも必然にもそろったのでしょう。

 映画って本来は、デリケートな問題にどんどん切り込んで、観る人の心を揺さぶるのが大きな役割のはず。世界中に社会派、あるいは自国の負の歴史を語るような映画作品は多々作られているし、それもエンタメと共存している。

 ところが今の日本では、「差別問題」を扱っているというだけで、すぐに先回りして「自主規制」してしまう。そういう残念な流れを変えるためにも、この映画の「意義」や「面白さ」を共有して、多くの人に観てほしいですね。

提供:『福田村事件』プロジェクト2023

提供:『福田村事件』プロジェクト2023

──かなり過酷な撮影だったとか。

 いやあ、ハードでしたね。去年の8~9月に一カ月ぐらいかけて京都や滋賀で撮影したんですけど、京都盆地の暑さが半端じゃない。しかもボクは、在郷軍人会の分会長の役で、暑苦しい軍服を着てる。それが通気性も悪いから大量の汗を吸って重いのなんの。

 スタッフとキャストはほとんど京都のホテルに合宿していたんですが、ボクは当時、参議院議員になったばかりで、いつ委員会が立ち上がるかわからなくて、質問の事前提出準備もあり、毎日東京に帰らなきゃいけない。体力的にもすり減って、ほかの人たちとの交流がないから孤独でした。そのおかげで役には没入できましたが……。東京から京都へ入るたびに大正時代にタイムスリップしているような感覚がありました。

 しかも、撮影の途中に大理石の階段で転倒して腰を痛めちゃって……。ほぼストーリーの順に撮っていたんですが、最後のクライマックスのシーンを撮るときは、もう立ってるだけでせいいっぱいで。スタッフがボクの腰が悪いのを気遣ってくださって、名優だらけのなかで、毎回、合間、合間、ボクだけ簡易椅子を出してくれました。超大御所扱いが、もう申し訳なくて(笑)。

関連キーワード

関連記事

トピックス

都内にある広末涼子容疑者の自宅に、静岡県警の家宅捜査が入った
《ガサ入れでミカン箱大の押収品》広末涼子の同乗マネが重傷で捜索令状は「危険運転致傷」容疑…「懲役12年以下」の重い罰則も 広末は事故前に“多くの処方薬を服用”と発信
NEWSポストセブン
『Mr.サンデー』(フジテレビ系)で発言した内容が炎上している元フジテレビアナウンサーでジャーナリストの長野智子氏(事務所HPより)
《「嫌だったら行かない」で炎上》元フジテレビ長野智子氏、一部からは擁護の声も バラエティアナとして活躍後は報道キャスターに転身「女・久米宏」「現場主義で熱心な取材ぶり」との評価
NEWSポストセブン
小笠原諸島の硫黄島をご訪問された天皇皇后両陛下(2025年4月。写真/JMPA)
《31年前との“リンク”》皇后雅子さまが硫黄島をご訪問 お召しの「ネイビー×白」のバイカラーセットアップは美智子さまとよく似た装い 
NEWSポストセブン
元SMAPの中居正広氏(52)に続いて、「とんねるず」石橋貴明(63)もテレビから消えてしまうのか──
《石橋貴明に“下半身露出”報道》中居正広トラブルに顔を隠して「いやあ…ダメダメ…」フジ第三者委が「重大な類似事案」と位置付けた理由
NEWSポストセブン
異例のツーショット写真が話題の大谷翔平(写真/Getty Images)
大谷翔平、“異例のツーショット写真”が話題 投稿したのは山火事で自宅が全焼したサッカー界注目の14才少女、女性アスリートとして真美子夫人と重なる姿
女性セブン
中日ドラゴンズのレジェンド・宇野勝氏(右)と富坂聰氏
【特別対談】「もしも“ウーやん”が中日ドラゴンズの監督だったら…」ドラファンならば一度は頭をかすめる考えを、本人・宇野勝にぶつけてみた
NEWSポストセブン
フジテレビの第三者委員会からヒアリングの打診があった石橋貴明
《中居氏とも密接関係》「“下半身露出”は石橋貴明」報道でフジ以外にも広がる波紋 正月のテレ朝『スポーツ王』放送は早くもピンチか
NEWSポストセブン
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された(写真は2019年)
《体調不良で「薬コンプリート!」投稿》広末涼子の不審な動きに「服用中のクスリが影響した可能性は…」専門家が解説
NEWSポストセブン
現役時代とは大違いの状況に(左から元鶴竜、元白鵬/時事通信フォト)
元鶴竜、“先達の親方衆の扱いが丁寧”と協会内の評価が急上昇、一方の元白鵬は部屋閉鎖…モンゴル出身横綱、引退後の逆転劇
週刊ポスト
女優の広末涼子容疑者が傷害容疑で現行犯逮捕された
〈不倫騒動後の復帰主演映画の撮影中だった〉広末涼子が事故直前に撮影現場で浴びせていた「罵声」 関係者が証言
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”川崎春花がついに「5週連続欠場」ツアーの広報担当「ブライトナー業務」の去就にも注目集まる「就任インタビュー撮影には不参加」
NEWSポストセブン
広末涼子容疑者(時事通信フォト)と事故現場
広末涼子、「勾留が長引く」可能性 取り調べ中に興奮状態で「自傷ほのめかす発言があった」との情報も 捜査関係者は「釈放でリスクも」と懸念
NEWSポストセブン