60歳以上の70~90%、80歳以上になるとほぼ100%が罹患する「白内障」。加齢などにより目の水晶体が白く濁っていき、悪化すると急性緑内障発作や失明につながるので厄介だ。二本松眼科病院副院長の平松類医師が解説する。
「視界がぼやけたりかすみ目になったりするのが典型的な症状で、ものが二重に見えることもあり、『月が4つに見える』と訴える人もいます。白内障を放置しすぎると水晶体の厚みが増し、眼圧が上がって緑内障を起こす恐れもあります」(平松医師、以下「 」内同)
治療法は濁った水晶体を取り除き、人工のレンズを挿入するのが一般的だ。比較的安全とされる手術だが、注意したい点がある。
「9割の患者が保険適用で1か所にピントが合う単焦点レンズを入れますが、老眼が進んでいる患者の中には遠近両方にピントを合わせられる多焦点レンズを選ぶ人もいます。
多焦点レンズは高性能ですが、人によっては見えすぎたりして普段の生活に支障をきたすケースもあります。多焦点レンズは一部自費診療となり、20万~100万円の高額な費用がかかるのに効果があまり感じられず、“話が違う”となる場合もあります」
加えて、「白内障の手術は比較的簡単」という言説の広がりも悲劇につながる。
「白内障の手術は高齢者ほど馴染みがあり、患者の中には人づてに簡単と聞いて気軽な気持ちで受けてみようという人が少なくありません。しかし、老眼が進行していない人が手術で単焦点レンズを入れると、ピントが1か所にしか合わずに手元などが見えにくくなってしまうことがあります。白内障手術を受けたことで結果的に老眼が進んだような症状になり、QOLを下げるケースもあるのです」
老眼治療と同じく、選択に慎重さが求められる。術後のアフターケアも怠ってはならない。
「白内障の手術を受けたら、術後1週間ほどは感染症に対する細心の注意が欠かせません。見えにくさや痛みを感じたのに放置してしまうと、最悪の場合は感染症が原因で失明します」
白内障の手術は日帰りででき、手術の成功率も高いため安易に考えがちだが、落とし穴もあるのだ。
※週刊ポスト2023年9月8日号