誰にでも“憧れの人”というものがあるだろう。その人の生き方や人間性に惹かれ、時には影響を受けることもある──。声優の池田昌子さんは、オードリー・ヘップバーンに心を奪われたという。池田さんが、オードリーの魅力を語ります。
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初めての出会いは1954年に上映された『ローマの休日』。スクリーンに映る彼女の圧倒的な明るさと美しさ、そして存在感に心奪われ、魅了されました。
その後も何度も見た大好きな作品だったのですが、後に声をアテることになるとは、そのときは夢にも思いませんでしたね。
1960年公開の『許されざる者』で初めてオードリー・ヘプバーン(享年63)の声を担当し、その後ありがたいことに長きにわたって声をアテさせてもらえることになりました。ずっと憧れていた人だったからうれしさもひとしおでしたが、同じくらいプレッシャーもありました。
ファンという立場からアテレコの声優という立場に変わって改めて作品を見返すと、せりふ回しはもちろん、一瞬しか映らない表情まですごくきめの細かい演技をしていることがわかりました。プレッシャーに押しつぶされそうになりながら、彼女の力に引っ張られるようにして何とか演じ切りました。これ以降、吹き替えというメディアを通して、オードリーは私にとって崇高な存在になったといえます。
女優としての実力と同じかそれ以上に素晴らしいのは彼女の人間性です。半生をユニセフの活動に費やしたことはもちろん、生前インタビューなどで拝見した折、役に入っているときと素の姿が違わず、「作っている」感がないのも魅力的でした。
彼女がこの世を去って30年が経ちますが、いまもって存在感が衰えない希有な女優だといえるでしょう。惜しむらくは、ご本人に「年齢を重ねてなお美しさを体現できる秘訣」を聞いておけばよかったということだけです。
【プロフィール】
池田昌子(いけだ・まさこ)/声優。東京都生まれ。子役から舞台、ドラマ出演などを経て1970年代から声優の仕事を中心に活躍。オードリー・ヘプバーンの吹き替えのほか代表作に『エースをねらえ!』のお蝶夫人役、『銀河鉄道999』のメーテル役など多数。
※女性セブン2023年9月14日号