9月に入っても暑さが和らぐ兆しがない。熱中症を予防するためにも、涼しい屋内で読書を楽しんでみてはいかがだろう。おすすめの新刊を紹介する。
『姫野ノート「弱さ」と闘う53の言葉』/姫野和樹/飛鳥新社/1400円
表紙の笑顔がナイスガイ! 2017年トヨタに加入し、キャプテンに指名された著者。誰も自分の話を聞いてくれず、孤独で苦しかった。そんな時に始めたのが姫野ノート。自分で思わず“ポエムか”と顔が赤らむ箇所もあるが、すべて正直に書いた。特にメンタルに関する記述は葛藤した人ならではの説得力が。この9月8日にラグビーW杯開幕。本書で観戦にも力が入りそうだ。
『百年の子』/古内一絵/小学館/1980円
老舗の文林館で「学年誌創刊百年企画チーム」に異動させられた明日花。戦時中の社員名簿に祖母の名前を見つけ驚く。祖母語りの戦時中の章、そして伝説の編集者が回顧する昭和の章で明らかになる、戦後の祖母や女達の“紐帯”。敗戦後78年は女性が参政権を得て78年でもある。反戦の意志は子供達の人権を護る未来賛歌。祈るように書かれた誠実な筆致に、軍拡の今がよぎる。
『資本主義は私たちをなぜ幸せにしないのか』/ナンシー・フレイザー著、江口泰子訳/ちくま新書/1210円
政治学者である著者は言う。資本主義は自分や自分を支える社会や自然を貪るシステムだと。過去を振り返っても、植民地から綿花(自然)を収奪し、石油の大量消費でオゾン層を減少させ、遺伝子操作で一代しか発芽しない種を開発、中央アフリカの希少鉱石を掘りまくりと、大食漢ぶりをますます発揮。マルクスは資本主義を過渡期と捉えていたと聞く。次を模索すべき時期かも。
『いつの空にも星が出ていた』/佐藤多佳子/講談社文庫/1045円
その対象を愛する人々が集まると、顔が晴れやかで、普通の場所が祝祭空間に変わる。野球場もそんな空間。神宮球場を愛した囲碁クラブの顧問真田先生、ベイスターズのキャップが縁で付き合い始めた「私」と宏太のエバーグリーンな恋、電気屋の息子が洋館の軽薄な息子と不本意な同居を始めたことから起こる騒動など4編。野球愛を浴び、読むこちら側も思わずエビス顔に。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年9月14日号