【週刊ポスト連載・医心伝身】頬の裏に発生する上顎洞がんの標準治療は手術となる。ただ、がん組織と共に骨や顔組織の摘出を行なうため、容貌が変化する。そこで開発されたのが、がんに栄養を送る動脈にカテーテルで高濃度の抗がん剤を大量に投与する超選択的動注化学療法だ。放射線治療を併用することで、手術不可の進行上顎洞がんに対しても治療可能となり、手術と同等の効果が得られている。
頭頸部とは鎖骨より上の脳と目以外の部分を指し、ここに発生するがんは手術が標準治療だ。上顎洞がんは頭頸部がんの一つで、頬の裏に発生し、初期段階では症状がほとんどなく、進行がんで発見されるケースが多い。
そのため、手術では顔半分を摘出することになり、容貌が著しく変化する。そこで30年程前にアメリカで開発されたのが、手術をしない超選択的動注化学療法だ。北海道大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の本間明宏教授に話を聞く。
「上顎洞がんは60歳以上の男性に好発します。男性にとっても顔の半分を取り、容貌が変わってしまうことは精神的なダメージが大きく、社会生活に対する影響もかなりあります。そのような患者さんの苦悩を少しでも和らげようと、手術以外の治療法を探っていたときに、超選択的動注化学療法を知り、アメリカに赴き学んできました。手術ができないような進行した上顎洞がんに対しても治療が可能となります」
超選択的動注化学療法は放射線治療と併用して行なう。まずは治療前に血管造影検査で、がんに栄養を送っている動脈を特定。次に大腿部の付け根からカテーテルを挿入し、栄養動脈にマイクロカテーテルを進め、がんに直接、抗がん剤を注入する。
使用する抗がん剤は高濃度のシスプラチンだ。シスプラチンは高い抗がん効果を発揮するが、副作用も強いので、この治療ではシスプラチンを解毒する中和剤も同時に注入する。つまり、シスプラチンが、がん細胞を通過して静脈に入る前に、中和剤がキャッチし、全身への影響をなるべく減少させるわけだ。