今夏は地上波の連続ドラマやスペシャルドラマで「知的障害者」が主人公の作品が相次いだ。近年は“感動ポルノ”という言葉で知られるように、心身に障害のある人の生活や人生についてドラマなどで「お涙頂戴」の題材とすることには批判が多い。しかし、メディア研究が専門のジャーナリスト・水島宏明氏(上智大学文学部新聞学科教授)は、今夏放送の『虹色のチョーク』(日本テレビ系)や『初恋、ざらり』(テレビ東京ほか)の2作品には、そうした「感動もの」とは毛色が異なる特徴があるという。水島氏が解説する。(以下、作品内容に関する記述を含みますので、未見の方はご注意ください)
* * *
『初恋、ざらり』衝撃の冒頭シーン
恋愛ドラマとしては異例ともいえる衝撃的な展開で始まる。
主人公の25歳の女性・上戸有紗(小野花梨)が男から強引に服を着たまま激しく行為を迫られる場面だ。人気のない場末のキャバクラの店内のような場所で「好きになっちゃった。いいでしょ?」とキスされて、体を押しつけられている。ベルトをゆるめた男が行為を終えて去った後で「わたし、これでしか役に立てない…」と有紗の心の声が聞こえてくる。
テレビ東京で放送している『初恋、ざらり』の第1回のエピソードだ。
ヒロインの上戸有紗は軽度の知的障害と自閉症スペトラムを抱えている。自己肯定感が低い、コンパニオンのバイトで相手をした客の男にしつこく求められて強引に行為を求められても「必要だって言われたら拒めない」と抵抗の力をゆるめてしまう。
そんな有紗が知的障害者であることを隠して配送センターでパートとして働き始める。そこの主任で10歳年上の岡村龍二(風間俊介)に惹かれていくというのがドラマの筋書きだ。若手俳優の2人が恋愛には奥手という初々しい男女の心模様を演じている。
なぜ主人公は知的障害をもつという設定なのか──。恋する2人には越えられない「高い壁」があるほど、恋愛ドラマで視聴者のカタルシス(浄化作用)が得られるという構図は一つの定番ではある。その「高い壁」の例としては難病や進行性のガンなど死に至る病、身体障害、聴覚障害、視覚障害……などがこれまで典型だった。「障害」も主人公のどちらかが障害者という設定は古くからあるものの、知的障害という設定は比較的最近になって登場するようになった。
『初恋、ざらり』だけでない。日本テレビの「24時間テレビ」内のスペシャルドラマ『虹色のチョーク』でも主人公の女性が知的障害者で自閉症スペクトラムも抱えていた。偶然の一致なのだろうか。知的障害者が主人公のドラマが相次ぐ背景を考察してみたい。