北朝鮮では強盗・殺人事件や爆破事件など、都市部を中心に急激に治安が悪化しており、金正恩最高指導部は「凶悪犯罪撲滅グループ」を新設して対応に乗り出していたことが明らかになった。また、治安悪化の原因として食糧不足が挙げられており、9月下旬の最高人民会議(国会に相当)で、その責任をとらされる形で金徳訓首相が更迭されるとの情報も出ている。米政府系報道機関「ラヂオ・フリー・アジア(RFA)」が報じた。
韓国の国家情報院はこのほど、今年1月~7月までの北朝鮮における暴力犯罪が前年同期比で3倍に増加し、自殺率が40%増加したとの数字を国会に報告した。
具体的には首都・平壌では公園で酔っ払って寝ていた人から携帯電話を盗もうとして騒ぎを起こした男が、人を刺し殺すという事件があった。
また、会社の同僚2人食事をしたあと、割り勘の代金を請求されたことに腹を立てて、持っていたナイフで同僚の腹を刺すという事件も起きているという。
さらに、平壌郊外では最近、物資を狙ったと思われる爆破事件が起きて数人が死亡する事件が起きるなど、治安の悪化に対して不安の声が聞かれる。
このため、朝鮮労働党上層部は警察組織である社会安全省に命じて、「凶悪犯罪撲滅グループ」を結成させ、昼夜を問わず特別機動隊による見回りを行わせているが、凶悪犯罪は一向に減る気配がないという。
この背景としてあげられるのが食糧不足などによる貧困だ。朝鮮労働党の金正恩総書記は8月中旬、東部・江原道の農業干拓地での台風被災地を視察し、同行していた金徳訓首相らに対して、堤防が決壊して干拓地が冠水したのは金首相らの対応が無責任だったからだと厳しく叱責した。
その後、8月21日には、金氏の妹、金与正党副部長や党中央委員会の趙甬元書記ら最高幹部とともに、北朝鮮西部の南浦市にある金星トラクター工場を視察した。
金総書記は「農業機械工業を画期的に跳躍させるのは富国強兵の大業を達成するためのわれわれの荘厳な革命闘争で根本の根本である食糧問題を解決する上で最も切実な問題だ」などと述べて、今年の最大の目標として農業生産の向上を強調した。
しかし、国際的な制裁を受けている状況で、食糧増産を簡単に実現するのは難しく、治安悪化を食い止めるのは容易ではないと見られている。