今年3月、約3万8000人が走った「東京マラソン」。参加者の年齢層は10〜80代と幅広く、過去には6時間台で完走した90才男性もいた。 42.195kmという気の遠くなるような距離を、なぜ走ろうと思うのか。
「ふだん、車でしか通れない公道を、ゼッケンをつけて走るのが快感」「走るたびにタイムが縮まるのがうれしい」など、参加の動機は人それぞれだ。
だが、「苦しくて二度と走らないと思うのに、完走した瞬間、また出ようと思ってしまう」など、走った人だけが持つ特別な達成感があるようだ。
そんな精神的満足だけでなく、「健康的な効果も見逃せない」と、福岡大学スポーツ科学部教授の川中健太郎さんは語る。
「マラソンをすると、ゆっくりと収縮する『遅筋』内の毛細血管やミトコンドリア(エネルギーを生成する小器官)、そして心臓が発達します。それにより、筋肉に多くの血液や酸素が供給できることで持久力のある、疲れにくい体になるんです。特に“細胞活性のエンジン役”であるミトコンドリアは、1週間に2〜3回トレーニングしただけでも増大するため効率もいい。それに海馬も発達するので認知機能の向上にも効果があります」(川中さん)
とはいえ、本誌が掲げた目標は半年でフルマラソン完走。しかも、すっかり運動とは縁遠くなった私たち……。初心者がたった半年の準備で完走できるものだろうか?
そんな疑問に対して、完走プランを指導してくれるランニングコーチの齊藤太郎さんは、「日常生活の活動量で差はつきますが、座りっぱなしの生活が長い人でも、しっかりと土台作りに励めば不可能ではありません」と、力強く語る。
また川中さんは、「歩く速度で走るスロージョギングなら完走は可能です」と言う。
あきらめたらそこで試合終了。少なくとも最後まで走りきったと胸を張るためにいま、何をすべきか。
約7万歩の歩数を“安全”に刻める脚力
「マラソンにおいて重要なのは、“速く走れる力”ではなく、“長く走れる力”です」と齊藤さんは言う。
「以前、運動をしていた人でも、長年使わなければ、当然脚力はさびつきます。反対に、走る習慣がなくても、立ち仕事などで常に脚(足)を動かしている人は、半年でフルマラソン完走は可能です」(齊藤さん・以下同)
ちなみに、東京マラソンの制限時間である7時間前後でゴールした人の歩数は、約7万歩になるという。
「『サブ3(3時間以内にゴールすること)』レベルのランナーは約3万歩でゴールしているので、一般ランナーは彼らの倍以上の歩数を要することになる。つまり、7時間かかる人の場合は、約7万歩の歩数を“安全”に刻める脚力が必要ということです」
歩くときの着地衝撃は体重の1.5倍だが、走りとなると、体重の3倍の衝撃がひざや足首にかかるという。さらに下り坂ではそれ以上の衝撃だ。
「衝撃に耐えられる筋力や関節ができていないのに、いきなり走る練習をしてしまうと、1か月くらいで足を痛めてしまいます。まずは走り込みならぬ、“歩き込み”で土台を作りましょう」