山形県の南部、置賜盆地にある赤湯温泉は、開湯930年を誇る名湯だ。同地の老舗旅館『山形座 瀧波』は2017年にリニューアルしたが、今春新たに『オステリア シンチェリータ』をオープンさせた。1日3組限定のオーベルジュ(フランス語で、直訳すると「旅籠」。郷土料理を提供する宿泊施設付きのレストランのこと)だ。
「『山形県人による、山形のためのショーケース、そしてセレクトショップになりたい』と思っているんです」と話すのは、副社長の須藤宏介さん。「2022年特に人気の高かった20室以下のラグジュアリーな宿」1位に輝いた同旅館の新しいチャレンジだ。
『オステリア シンチェリータ』の設計にあたっては、かつてミシュラン一つ星を獲得した原田誠シェフの創意がふんだんに盛り込まれている。
調理台を臨む大きなカウンターが自慢のレストランを同シェフは「私の部屋」と表現するが、ここでは舞台を楽しむようにシェフの調理風景を間近で見ることができる。
「置賜盆地は『魔法の盆地』です。四方を2000m級の山々にぐるりと囲まれていて、四季の濃淡がはっきりしています。盆地気候の昼夜の大きな寒暖差がすべての食材を美味しくしてくれます。野菜もフルーツも、この盆地で32か月以上ゆっくり育てられる米沢牛も」(原田さん)
この地の食材に魅せられ移住を決断した原田さんの料理を五感すべてで味わえる、なんとも贅沢な空間だ。
「夕食は9皿前後の『置賜イタリアン』のコースで、その日そのときにいちばんおいしい食材を使い、シェフならではのアレンジを加えたメニュー。私がセレクトしたナチュラルワインのペアリングもあります。ライブ感あふれるレストランでは、スターシェフを独占している気分になりますよ」(高橋広野マネージャー)
中庭には、シェフこだわりのファイヤーピット、たき火が楽しめるテーブルがあり、こちらで料理やお酒を楽しむこともできる。
客室はメゾネットタイプで、2階に読書スペースがある「GRANO」などがある。客室の風呂も瀧波ならではの「生まれたての源泉」、かけ流しを超えた「十割源泉」。家具は『天童木工』や、山形県朝日町で製作したフィンユール。照明も米沢市の「木のあかり」、履物も高畠町の「仙太郎下駄」。山形を全身で堪能できる宿だ。
【DATA】
OSTERIA SINCERITA/1泊2食付き(2名1室利用時)7万7000円〜。山形ワインを含むウエルカムドリンク、ディナー時のドリンクペアリング、ミニバー利用も含まれる。
住所:山形県南陽市赤湯3005
取材・文/山下和恵
※女性セブン2023年9月21日号