コロナ禍以降、道具や場所代もかからない手軽な健康法としてランニングを始める人が増えている。とはいえ、高齢者の場合、いかに安全に運動できるかということも重要だ。そこで、高齢者が安全にできる運動として福岡大学名誉教授の故・田中宏暁さんが考案したのがスロージョギングだ「歩く速さで小刻みに走り、息が上がってはダメ」という運動だが、この走法でフルマラソン完走も可能だというが、本当なのだろうか?
「はい。スロージョギングを3〜6か月続ければフルマラソンを走る体力が身につきます。体重が重い人でも大丈夫です。かつて田中教授は『ホノルルマラソンを完走しよう!』という市民講座を開設し、7か月の指導で多くの完走者(主に中高年)を輩出しています」
と、スロージョギング協会理事の佐藤紀子さんは太鼓判を押す。
なぜ、キツい運動でもないのに体力がつくのか。
「負荷が軽くても、小刻みに脚を動かしているので持久力が養われます。同時に走る際のジャンプは小さなスクワット運動の連続でもあるため、太ももの前側、お尻の筋肉、腹筋、背筋などの大きな筋肉が鍛えられ、丈夫な足腰作りにつながっているのです」(佐藤さん)
福岡大学スポーツ科学部教授の川中健太郎さんはさらにこう語る。
「運動強度が高くなると筋肉に乳酸がたまり、体がストレスを感じ始めますが、乳酸がたまる直前の軽い運動、いわゆる『LT(乳酸性閾値)』と呼ばれる段階でも、エネルギー源として糖と脂肪が消費され、心肺機能も高まることが実証されています。ラクすぎずキツすぎないスロージョギングは、まさにLTの運動です」
ハードな運動は長時間できず体への負担も大きいが、LTは長く続けられて運動効果も高いというわけだ。
「駅伝選手は朝練習で1時間ほど走ります。すごくハードに見えますが、彼らも彼らなりの“スロージョギング”で走っているので、つらくはない。もちろん、一般の人からするとはるかに速いのですが」(川中さん)