小さじ1杯の泡で貯水池を汚染する
太陽の光を浴びて輝くハイビスカスにエメラルドグリーンに輝く美ら海。風に揺れるさとうきび──美しい自然環境にある沖縄だが、現地の住民は知らぬうちにPFASの脅威にさらされてきた。沖縄の地元紙「琉球新報」記者・安里洋輔さんが説明する。
「沖縄でPFASの問題が顕在化したのは2016年1月。米軍嘉手納基地を通る大工廻川や同基地周辺の比謝川で国が定めた暫定指針値を大幅に超える高濃度のPFOSが検出され、大きな問題となった」
PFASは、ストックホルム条約(2001年)で国際的に製造・使用が制限され、国内でも原則的に使用・製造が禁止されている。だが、基地内では航空火災に用いる泡消火剤として使用が続けられ、県内各地の米軍基地周辺で高濃度での検出が相次いでいる。
「2022年、市民団体が行った血中濃度検査を受けた387人のうち、アメリカの目安値を超えた人が40.1%(155人)いました。彼らの多くは基地周辺に住んでいて、汚染が米軍由来である可能性は極めて高い。にもかかわらず、県が汚染源特定のために求める立ち入り調査を米軍は拒否し続けているのです」(安里さん)
宜野湾市内で高濃度のPFAS(令和4年度冬季調査でPFOS、PFOAの合計890ng/l)が検出された湧水「喜友名泉」を訪ねた。カーグヮー・ウフガーと呼ばれる2つの石造湧泉で構成され、国の重要文化財にも指定されている。この泉の近くで育った女性(77才)が話す。
「アメリカ統治下の時代、小学生の頃に水道が通りましたが、私はずっとこの水を飲んできました。料理や洗濯、水浴びもすべてここの水でした。いまもきれいな水が湧いていますが『飲めません』との看板が出ている。いまさら、飲むと体に悪いなんて……」
3人の子の母でもある沖縄県北谷町議会議員の仲宗根由美さんが話す。
「北谷町の全世帯に供給される水に有害物質が入っていると聞いて、本当に驚きました。上の2人の子には、簡易的な浄水器だけで水道の水を飲ませてしまっていた。勉強会で“妊婦がPFASを摂ると有害物質がへその緒を通じて胎児に行く”と聞いてかなりショックを受けました。いまはPFASが除去できるという逆浸透膜の浄水器をレンタルしていますが、月4900円と決して安くはありません」
何より恐ろしいのは、将来的に子供の健康に何らかの影響が出ることだ。
「『PFOAは体内の時限爆弾』と書いてあった本もありました。徐々に症状が出るのではなく、蓄積したものがあるとき爆発的に病気になって出る物質だと……。いつ、どんな病気が出てくるのか本当に不安です」(仲宗根さん)
PFASが大量に流出する大きな事故も起きている。
「2020年4月に普天間飛行場の格納庫で誤作動があり、PFASを含有する泡消火剤が漏出。宜野湾市の宇地泊川周辺に風に乗るような形で泡が飛散し、大量の泡が川や道路、住宅街にまき散らされました。漏出量は米軍発表で22万7000リットル、うち基地外に出たのは14万4000リットル。消防が泡を吸い取りましたが、多くは海に流れました」(宜野湾市基地政策部担当者)
宜野湾市の住民が当日のことをこう振り返る。
「広報スピーカーから“白い泡は危険なので触らないでください”と何度も注意喚起の放送が流れていたことを覚えています。小学生だった子供たちは危険であることを理解できずに触りたがるし、何よりこんな近くに有害物質があることが恐ろしかった」