【週刊ポスト連載・医心伝身】目を開いた際、正常な位置まで瞼が開かないのが眼瞼下垂だ。モノが見えにくいだけでなく、眼瞼下垂は脳の覚醒に関係していることが判明した。目を開くと瞼のミューラー筋が引っ張られ、固有感覚が生じ、脳の司令塔である青斑核を刺激する。青斑核は覚醒や筋肉の緊張、自律神経にも影響しており、眼瞼下垂では瞼のスイッチが入らず、頭痛や肩こり、眼精疲労、意欲低下などが起こる。
目を開けるには瞼にある上眼瞼挙筋が収縮し、アキレス腱に相当する腱膜を引っ張ることで瞼板を持ち上げて開瞼する。眼瞼下垂とは腱膜が瞼板から外れ、瞼を持ち上げられなくなる状態のことだ。
原因はソフトコンタクトレンズの着脱、点眼、アイメイク、花粉症、水泳のゴーグル装着などで瞼を引っ張ったり、こする習慣で生じる。患者層は高齢者のみならず、若い世代にも多い。
そして、最新の研究により、眼瞼下垂は瞼が開けにくくなるだけでなく、頭痛や肩こり、意欲の低下、不眠、不安など様々な症状を起こすことがわかってきた。
眼瞼下垂による、これらの症状が発生する原因と作用を研究した、松尾形成外科・眼瞼クリニック(静岡県浜松市)の松尾清院長に聞く。
「人が目を開くとき、上眼瞼挙筋と瞼板の間を繋ぐミューラー筋が引っ張られ、固有感覚が生じます。この固有感覚というのは外からの刺激で感じる痛覚や触覚とは違う自覚できない感覚のこと。これが脳の中心にある青斑核を刺激します。青斑核は脳の覚醒や注意、情動に作用するほか、筋肉の緊張や自律神経、特に交感神経を興奮させる働きをしているのです」
つまり、瞼のミューラー筋がスイッチの役目をし、脳が覚醒するわけだ。強く瞼を開けると脳がより強く覚醒して前頭前野を刺激する。前頭前野が活発に活動を始めると顔の表情筋が緊張し、交感神経の亢進や鼓動も激しくなり、血圧が上昇する──。