暑さが一段落し、秋を感じられる日も少しずつ増えてきた。読書の秋におすすめの新刊を紹介する。
『教養としての歴史小説』/今村翔吾/ダイヤモンド社/1760円
ここでいう歴史小説には時代小説も含む。小5で母にねだった全16巻の『真田太平記』に大興奮。以後歴史小説を師や友とし、直木賞作家になった今その効用と効果を全身で伝える。お金の使い方、ビジネスの要諦、学びの喜び、旅や食も歴史の素養で楽しさ倍増、初対面の人との会話にもフックができる。題名の教養を栄養に読み替えると、あら不思議、必須栄養素の気がしてくる。
『十戒』/夕木春央/講談社/1815円
孤島、連続殺人、犯人はこの中に。という壁に著者も挑む。伯父が遺した外周徒歩15分の島。父と娘が観光開発会社の人など総勢9人で視察に行くが、第一の殺人後3日間島を出るな、犯人を捜すな、さもなくば起爆装置を作動させると、十の戒律を記したメモが見つかる。第二の殺人の後には第二のメモが。本格ミステリーファンにはたまらない仕掛け。最後の2行にシビれる。
『シン・男がつらいよ 右肩下がりの時代の男性受難』/奥田祥子/朝日新書/935円
米国では今年、2大学の人種優遇策に違憲判決が出た。優遇策は別の人種(白人)への罰になるとして。日本ではジェンダーでこの問題が起きている。女性活躍策の陰で男性達が泣いているのだ。失われた30年で日本の男達は稼ぎ手という男らしさに自信を失い、若年男性は逆にその古い男らしさの呪縛に苦しむ。男も女も解放されるには? どちらにも社会問題として向き合わねば。
『サキの忘れ物』/津村記久子/新潮文庫/649円
喫茶(店)小説と言いたくなる。高校を中退しバイトする喫茶店に女性客が忘れた文庫本。同じ本を買い、本を読む楽しさに目覚め、書店員としてその女性と再会する表題作。閉店する紅茶専門店で耳に飛び込んでくる音声ドラマ、ヤケになって飛び移った隣のビルの敷地内ベンチでご馳走になる珈琲。大昔に買ったサキ短編集を探したら本棚にない! 表題作に紛れ込んだ気分だ……。
文/温水ゆかり
※女性セブン2023年10月5日号