人生の最終盤で避けて通れないのが、「延命治療」の問題だ。延命治療とは、病気や老衰などで回復の見込みがない「終末期」の患者に対して、「少しでも命を延ばすため」に行なう治療のこと。
主な方法には口から栄養が摂れなくなった患者に行なう「人工栄養」のほか「人工透析」「人工呼吸」などがある。処置をしなければ直ちに命が失われるような切迫した状況では、文字通り患者の命綱となるものだ。
その一方で、「健康寿命」という言葉がある通り、最近では長く生きることだけでなく、「どう健康に生活できるか」について関心が高まり、日常のQOL(生活の質)を大事にする考え方も浸透してきた。そうした考えのもとでは、終末期の延命治療をするかしないかは重大なテーマだ。ベストセラー『「平穏死」のすすめ』の著者で、東京・世田谷区の特別養護老人ホームで顧問医師を務める石飛幸三医師が言う。
「ただ命を少し延ばすための治療で患者さんが回復せずに苦しむだけであれば、医療としての意味がなくなる。本来は穏やかであるはずの老いの終末が苦痛の多いドタバタに変わりかねないのは、長年、終末期の延命治療が当たり前のように行なわれてきたからでしょう」(以下、「 」内は石飛医師)
延命治療の苦しみとはどんなものか。たとえば人工呼吸では、チューブを気管内に挿入する際に苦痛を伴うため、患者が暴れないように麻酔薬や鎮静薬を併用する。挿管後も、苦しみを除くために鎮静薬を使い続けなければならない。
人工栄養の際に用いる「胃ろう」や「経鼻胃管」では、高齢の終末期の患者でも1日約2リットルの栄養剤を投与する。その結果、肺に水が溜まる肺水腫などを招き、溺れた時のような苦しみのなか死んでいくケースもあったという。
家族会議が重要
そうした過酷な実態を知る人が増えた今では、あらかじめ「延命治療を望まない」とする患者は多いが、それでも思った通りにいかないケースがある。
「それは“何があっても親に生きていてほしい”という子供の思いからで、家族としては自然な気持ち。病院側も、家族から頼まれたら延命治療をやらざるを得ないでしょう」