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高田文夫氏が語る、軽妙で洒脱でちょっと毒があって江戸前でシャイな「立川左談次」

まむしの兄弟と呼ばれた立川左談次(イラスト/佐野文二郎)

まむしの兄弟と呼ばれた立川左談次(イラスト/佐野文二郎)

 放送作家、タレント、演芸評論家、そして立川流の「立川藤志楼」として高座にもあがる高田文夫氏が『週刊ポスト』で連載するエッセイ「笑刊ポスト」。今回は、同世代の客が集まる吉幾三オンステージと、まむしの兄弟と呼ばれた立川左談次について綴る。

 * * *
 75歳だというのに相変わらずフットワークもよく、好きな人だったら何処でも見に行く。聞きにいく。吉幾三のあの歌声と爆笑の喋りが好きだ。山岡英二と名乗っていた頃から気にかけ『俺ら東京さ行ぐだ』で元祖ラッパー(?)となり『雪國』の凍てつくような大ヒットで大作家とヒット歌手の称号を手に入れ、その後のふざけた人生もつぶさに見ている。よく私のラジオにも来てくれていつもただバカ言って、じゃれ合って帰る。

 9月6日は昼の部と夜の部で「吉幾三オンステージ2023」。場所は勝手知ったる生まれ故郷渋谷の公会堂だ。今はLINE CUBE(ラインキューブ)と言う。渋谷駅を出て公園通りに入ったらいきなりの夕立ち。差し入れを手に小走りに行くと後からおばちゃん軍団「あら高田さん、大変。荷物持つわよ」「いいから。シッうっとうしい」するとおばちゃん追い抜きざま「私よ! ホラ、昔、毒蝮の事務所に居た○○」。知るか!! 蝮直伝のおせっかい焼きなんだろう。

 入口ゴッタ返している。そこを大学生の男子ふたりが通り「えらいジジババ集まってるじゃん」「ポスター見て! 吉幾三だって」「ラインキューブも前向きだな」だと。

 客席に着き見渡せばみんな同世代。この客席からはまったく未来が見えない。年内に自分の命日を迎えそうな人ばかり。それでも嬉しそうにしている。こうして生きる勇気を吉は与えているのだろう。

“女性歌手のカバーアルバム”をこの日出したとかで色々歌ったが、やっぱりちあきなおみの『紅とんぼ』が抜群。新宿の裏口で店をたたむ女将の歌だ。私にも何軒か思い当る店もあるのでジーン。隣の席のジジィがふたり「俺ここ昔、“全員集合”で見に来たことあるわ」「ドリフの? ああ、それでここのこと“アイーン チューブ”って言うのか」だと。駄目だ、こりゃ。

 会いたくても会えない人もいる。悪友・立川左談次。2018年、67歳で他界。軽妙で洒脱でちょっと毒があって江戸前でシャイな男だった。橘右橘(寄席文字の大家)が「暑気払いを」と声を掛けて左談次夫人らと8人でにぎやかに神楽坂に集まった。楽しい時間。そんな頃、週刊誌の「新・家の履歴書」にふざけた男、三遊亭白鳥が出て「若い頃、池袋の貧乏アパートに夜中、あの“まむしの兄弟”と呼ばれる高田センセーと左談次師匠が酔って来て“殺風景だな。壁画描いてやる”とマヨネーズとケチャップで絵を描いてったんです」と泣いていた。翌日“学者芸人”サンキュータツオが左談次の最後の姿を書きつづった『これやこの』(角川文庫)を贈ってくれた。いい人はこうして語り継がれる。

※週刊ポスト2023年9月29日号

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