「見知らぬ国の道を歩いているとそこを歩いてきた様々な人間達の表情が浮かぶ時がある」──フランスを縦断した旅路をふり返ってこう綴るのは、旅を愛する作家・伊集院静氏だ。
1996年から約1年半にわたり週刊ポスト誌上で連載した旅エッセイが『ナポレオン街道 可愛い皇帝との旅』として発売された。写真は著者40代後半の頃、取材中の姿を収めた一枚。
本書では、コルシカ島で生まれた少年が軍事の天才として頭角を現わし、「ナポレオン皇帝」にまでのぼりつめた足跡を伊集院氏が実際に辿る。ナポレオンの子孫への取材なども交えながら、「戦争」「英雄」の本質に迫った紀行文だ。
人間性を喪失させる戦争を一貫して憎み軍人を厭う姿勢の伊集院氏だが、今日の競馬の基礎を作り、妻ジョゼフィーヌに戦場から愛の言葉を送り続けては冷遇されるナポレオンには「愛嬌があった」と書く。
本書を味わいながら、英雄の人間的な側面に想いを馳せる“思索の旅”に出るのも楽しそうだ。
撮影/太田真三
※週刊ポスト2023年10月6・13日号