日本最大の歓楽街・新宿歌舞伎町。その中心部にほど近い新宿区立大久保公園にいま、路上で売春の客を待つ“立ちんぼ”が急増している。その多くは、20代前半だという。「交縁女子」と名乗る彼女たちの実情を、歌舞伎町の住人たちを取材した著書『ホス狂い~歌舞伎町ネバーランドで女たちは今日も踊る〜』を持つノンフィクションライターの宇都宮直子氏がレポート。【前後編の前編】
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「宇都宮さん、私の知り合いの“交縁女子”で逮捕されちゃった子がいるんですけど、話、聞いてもらえますか?」
こう話すのは、まだ20代半ばと年若いながらも、歌舞伎町でバーの店長として店に立ち、女の子たちの中でも「顔」となっている事情通の女性ナナさん(仮名)だ。聞くと、その“知り合い”はまだハタチ。大久保公園脇で立っていたところを、客を装った覆面警官に現行犯逮捕され、「留置所から出てきたばかり」という。
“交縁”とは2022年ころからSNSを中心に広まった言葉で、歌舞伎町の高層ビル『ハイジア』付近から大久保病院、そして大久保公園近辺で「男性との縁」を求める女性たちと彼女らを「買う」男性たちの“行為”を総称した造語。いわゆる「立ちんぼ」のことだ。彼女らのメインの活動場所である「公園」にかけて「交縁」としたその言葉は、キャッチーな響きもあり、人気YouTuberや大手メディアが大々的に取り上げ、公園周辺にはますます「売りたい女性」と「買いたい男性」が集まるようになった。
その様子を一目見ようとする観光客や配信者などが入りみだれ、一時期は決して広くはない公園周辺の一画に、国籍を問わず老若男女さまざまな人々が集まり、まるでラッシュアワーの満員電車ほどの賑わいとなっていた。個人売春が“援助交際”と名前を変え、現在は「パパ活」とよりポップな印象となり、一般の女の子が参入してきたように「街娼」や「立ちんぼ」が「交縁女子」と言い換えられるようになったことをきっかけに、まだ若い女性たちが公園の脇に立つようになったのだ。
私は、彼女たちの存在が少しずつ話題を集め始めていた2022年6月頃、歌舞伎町に集まる「ホス狂い」の女の子たちを取材すべく大久保公園の真向かいに立つホテルに居を構えていた。昼すぎになると集まってくる、ふわふわのワンピースにキャリーバッグを持った若い女の子たちや、すぐそばの「トー横広場」にいる「トー横キッズ」のような少女、そして、周辺をぐるぐると回遊するかのような男性たちの姿に、当初「ここは待ち合わせの“聖地”なのかな?」とくらいにしか思っていなかった。つまりはそれほど、「交縁女子」たちは、どこにでもいるような女の子たちだったのだ。
店舗ならまだしも、一対一のやりとりでは事件に巻き込まれる可能性、またそれこそ逮捕のリスクなど、常に危険がつきまとう。にもかかわらず、一体なぜ彼女たちはその場に立ち続けるのか。大久保公園付近を訪れるたび、またメディアで「交縁」について報じられるたび、疑問がよぎっていた。だから、ナナさんからの提案はある意味で“渡りに船”だった──。