「クマを殺すな!」──クマ3頭の“立てこもり”で全国の注目を集めた秋田県美郷町をまた別のトラブルが襲っている。クマを駆除したことへの苦情が県外から殺到しているのだ。地元新聞の記者が経緯を振り返る。
「10月4日朝、住宅地でクマが目撃されました。連絡を受けた町の職員が駆けつけたところ、クマは畳店の作業小屋に逃げ込みました。“立てこもり”は丸1日近く続き、ようやく5日早朝に捕獲され、駆除されました。クマは3頭で、親グマ1頭、子グマ2頭とみられます」(地元新聞の記者)
秋田県ではクマによる人身被害の件数が過去最高となっている。例年は10件に満たなかったが、今年は10月6日時点で31件発生。県が公開しているリストによると、山奥に足を踏み入れた人だけでなく、里で農作業をしていた人や、散歩をしていただけの人まで重傷を負う被害にあっている。
県庁の自然保護課に問い合わせたところ、担当者は、「県外の方にとっては、クマはただかわいい生き物かもしれませんが……」とため息をついた。
「『なぜ殺すのか』や『可哀想だ』など、県庁にも多くの苦情が寄せられています。クマの生息範囲の近くで暮らす人間としては、生活の安全を守るため、時には駆除も選択肢に入ってくるのですが、そういった事情が県外の方には理解しづらいのかもしれません。
散歩中や農作業はもちろん、“玄関の扉を開けたら……”なんてこともあります。被害状況の聞き取りも行っていますが、顔を爪でバッサリ引っ掻かれて、目をやられた、鼻をとられたという話も聞いています」(自然保護課の担当者、以下同)
人身被害が激増している原因として、どんなことが考えられるか。
「クマの数自体はそこまで増えておらず、横ばいなのではないでしょうか。クマの数ではなく、クマの生息範囲が広がっていることが原因として考えられます。山と人里の境にあった田畑が使われなくなったことにより、クマと人間の生活圏で重複する部分が増えてきたのではないかと考えています。また、気候の影響などで山に食べ物が減ってきたのかもしれません」
クマは“身近な危険”なのだ。県では人身被害を防ぐため、鈴やラジオなどで音を鳴らしながら行動するように呼びかけたり、農作物の周りに電気柵を仕掛けるといった対策をとっている。子どもが犠牲にならないように、小学校などに出向き、クマの生態などについて伝える講座も開いているという。自然保護課の担当者は続ける。
「今年は特にクマの出没が多く、この傾向はクマが冬眠するまで続くことが見込まれます。地元の人間にとって、クマは、いつでも・どこでも・誰でも遭遇しうるリスクなんです」
クマと共に生きる人間にしかわからない苦労や恐怖がある。